JAXAの宇宙飛行士、油井亀美也さんが無事帰還しました。国際宇宙ステーションで5か月の長期滞在から戻った油井さんは「重力の存在を改めて感じた」と話しました。それだけ、宇宙空間の作業は人間にとって過酷な環境なのです。
そんな環境下での作業をサポートする道具の1つに、「時計」があります。温度、湿度、重力加速度など、人間に厳しい状況は、正確に時を刻まなければ役に立たない時計にとっても同様に過酷です。
宇宙空間や、人類が空を開拓した時代、深海の謎を探る過程で、腕時計が人間の活動を助けてきました。そんな歴史を持つ腕時計、オメガ・スピードマスタープロフェッショナル、ブライトリング・ナビタイマー、セイコー・ダイバーウォッチを紹介します。
そもそも普通の時計のスペックとは?
腕時計の歴史に名を刻む名品の紹介の前に、普通の時計のレベルを見てみましょう。
例として、防水機能を比べます。いわゆる日常生活防水とは2~3気圧の防水能力です。しかし、素潜りや水上スポーツはもちろん、水仕事にも使用しないように、との注意があります。それに対して、「飽和潜水時計」と呼ばれるダイバーウォッチは水深300mでも時間を正確に計測する防水性を備えています。
現在、一般に普及しているのは安価ながら、クォーツの高機能を持つ時計です。しかし、カシオがGショックを開発したのは、「腕時計を床に落とすと簡単に壊れる」ことから、耐衝撃性能を持たせるためでした。それだけ、一般の時計は衝撃に弱いのです。
宇宙空間でも耐えるオメガの「ムーンウォッチ」
朝、オメガの時計がカッコイイと言いましたが、どうやら博士の時計(幾つかあるうちの1つ)は「オメガ スピードマスター ムーンウォッチ ムーンフェイズ(革ベルト仕様)」らしいです!何か嬉しい…? pic.twitter.com/HY4zUWt4VE
— はな✿Anela871 (@Anela_hana871) 2015, 12月 15
オメガの「スピードマスタープロフェッショナル」(55万円)は現在「ムーンウォッチ」と呼ばれています。それは1969年、アポロ11号の飛行士、バズ・オルドリンと共に月面に降り立ったことに由来します。
NASAは飛行士が使う時計を採用するにあたって、過酷なテストを実施しました。耐熱、耐寒、耐衝撃で、それこそ地球上ではありえない環境を試しました。他の時計は風防が割れたり、止まってしまったりする中で、オメガだけが唯一テストを通過したのです。
さらに1970年、アポロ13号は酸素タンクの爆発で電気系統の故障を起こす重大な事故を起こしました。そのピンチにスピードマスターを使うことでエンジン噴射時間を制御し、奇跡的な生還を果たしたのです。これによって、その名声は不動のものとなりました。
しかしオメガはこの成功にあぐらをかくことはなく開発を続ました。もはや完成品と呼んでも差し支えない機械式時計の可能性を現代でも探るオメガは、まさに人類と共に初めて月面に立った老舗時計メーカーの矜持なのです。
狂うことは許されない!ブライトリングジャパン「パイロットウォッチ」
ブライトリングの歴史は、人類が空に挑戦してきた足跡と共にあります。1952年に航空航法用の回転計算尺を付けたクロノグラフ、初代「ナビタイマー」が世に出ました。
当時は管制塔や航空機にレーダーは搭載されず、地図を頼りに空を飛んでいました。
地図から飛行距離がを調べ、かかった時間から飛行速度を計算します。それによって、目的地への到達時間を割り出し、さらに燃料計から消費量、残りの燃料でどれだけ航続距離が得られるか。風速の影響から到達時間の補正など、これらの計算が、すべて時計の回転ベゼルにある計算尺によって可能となるのです。
現在の「ナビタイマー01」(92万円)にも、発売当時アメリカで普及していた航空法用回転計算尺の機能をそのまま装備されています。これが、ブライトリングが「パイロットウォッチ」と呼ばれる由縁です。
もちろん、現代のパイロットがブライトリングのベゼルを使って、航法を決めているわけではありません。しかし、パイロット達にとって、かつて空の男たちが、唯一頼りにした時計を、今も腕にはめて空を飛ぶことがは憧れでもあり、誇りなのです。
さらに日本では2003年に発売された「エマージェンシー」は、121.5MHzの航空機用救命無線機を内蔵し、国際航空遭難信号を48時間発信する機能を持ちます。つまり、飛行機で山林等に墜落しても、この時計でSOSを出せば、世界のどこにいても救助ヘリが飛んできます。
日本国内では航空法24条による航空従事者、電波法40条の無線従事者でなければ購入することはできません。つまり、一般人には買えない腕時計です。まさにパイロットだけの時計を作るブライトリングは、「空」とともに歩むメーカーです。
深海の水圧にも耐えるセイコ―の「ダイバーズウォッチ」
一般の人にとって腕時計には生活防水機能があれば十分で、数百mに及ぶ防水機能が必要な顧客は少ないのですが、セイコーはその過酷な環境にチャレンジしました。
そのきっかけは、1通の手紙でした。1968年当時、セイコーは国産初の潜水用防水ダイバーウォッチを発売しました。そこに、広島県呉市のプロダイバーから「現在市販されているダイバーズウォッチは300m以深の潜水には耐えられない」との手紙が届いたのです。
セイコーはこの手紙をきっかけに、プロジェクトチームを結成しました。そして1978年、世界初のチタン製ワンピース構造にクオーツ式ムーブメントを搭載したプロフェッショナルダイバーズ600m「6159‐022」を完成させたのです。
これを完成させた同年、このモデルを日本大学、植村直己が北極探検に使用。さらに1983年には、海洋科学技術センター(現在の海洋研究開発機構)の潜水調査船「しんかい2000」で水深1062mまで潜航して生還。驚異的な耐圧性能を示しました。
セイコーはその後も、電池交換不要、ダイブコンピューター機能搭載、フルオート計測アナログ式水深計、外胴プロテクター「スプリングドライブ」と、現代の「プロスペックス マリーンマスタープロフェッショナル」(37万円)に至るまで次々と世界初の機能付きダイバーズウォッチを発表しています。
歴史ある時計の技術は不朽のものである
今や、腕時計はファッションの一部にもなり、価格も1万円以下でも多くの種類があり、日替わりで時計を楽しめる時代にもなっています。
しかし、スピードマスター、ナビタイマー、セイコーダイバーズウォッチが歩んだ歴史の重みは、唯一無二のものです。これは高価であっても、それだけの価値のあるメーカーの矜持の賜物なのです。