『温故知新』という熟語は、「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」と読み下します。
“昔ながらのものを活用したり、知識を深めることによって、新しい知識や道理を身につけることができる”という意味です。
最近では、古くから日本の誇り高い文化の1つである「伝統工芸」と、新しい日本の文化として世界中に知られつつある「アニメ」がコラボレーションした商品が増えています。
一見、異色の組み合わせにも思える「伝統工芸」と「アニメ」ですが、『温故知新』の考えを反映させていると言えるでしょう。日本文化の新旧融合として、日本の”伝統工芸の技術力”と”アニメの世界観”がさらに素晴らしい作品が完成させる、非常に興味深い傾向にあります。
今回は、過去に伝統工芸とアニメがコラボした例を参考にしながら、その反響について探っていきます。
1.なんと創業400周年!有田焼、節目コラボレーション。「有田焼×ONEPIECE」
(出典:プレミアムバンダイ)
佐賀県有田町を中心につくられている日本最古の陶磁器、「有田焼」。それと今や、日本のアニメ・漫画文化をけん引する存在ともいえる国民的な少年漫画「ONEPIECE」がコラボレーションしました。
「ONEPIECE」は、海賊となった少年モンキー・D・ルフィを主人公とする、「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を巡る海洋冒険漫画。最近では、市川猿之助さんのスーパー歌舞伎で取り入れられたりなど、日本古来の文化との幅広くコラボレーションをしています。
有田焼と「ONEPIECE」のコラボは有田焼400周年を記念して企画されたもので、有田焼の大皿に、「ONEPIECE」ファンにとって馴染みのあるシーンが、歴史ある伝統工芸品にふさわしい「浮世絵風」のタッチで描かれています。キャラクターの着物には日本古来から縁起がいいとされる、動植物などを描いた図柄「吉祥文様」が使われていたり、いたるところに「ONEPIECE」の世界観を反映したモチーフが描かれていたり、と細部までこだわり抜かれています。
ONEPIECEの世界観をそのままに、伝統工芸品としても最高の仕上がりになっています。
2.アニメが大きなきっかけに!「江戸切子×アイドルマスター シンデレラガールズ」
(出典:アイドルマスター シンデレラガールズ)
「アイドルマスター シンデレラガールズ」は個性的なアイドル候補生の女の子たちが、一人前のアイドルを目指して成長していく様子を描いたアニメです。元々はソーシャルゲームでしたが、2015年にアニメ化されました。
その作中で、日本の伝統的なカットグラス「江戸切子」が題材として取り入れられたことから、コラボレーション企画が行われました。
「江戸切子」とは、ガラスの表面にカットを入れる技術自体のことを言います。独特な色合いのグラスに様々な模様のカットが施されており、光が当たるとキラキラと美しく光るのが魅力です。コラボ商品は”シンデレラガールズ”をイメージさせる純粋でガーリーなデザインのカットに仕上がっています。
その美しさに「シンデレラガールズ」ファン以外の人の間でも話題となり、即完売。プレミアが付くほどの人気商品となりました。
3.茨城県のアピールにもつながった「笠間焼×ガールズ&パンツァー」
(出典:HOBBY STOCK)
アニメ、「ガールズ&パンツァー」の世界では、書道・茶道のように”戦車道”というたしなみが存在し、少女たちが戦車を使った競技に参加して全国大会優勝を目指して戦っていきます。登場する戦車は実際に存在する車種で、機能面などの描写が詳細まで描かれていることもあり、劇場版はハリウッド映画顔負けの迫力で幅広い層から人気を博しています。
この圧倒的な人気に伴って、舞台となっている茨城県・大洗市も、数万人の観光客が訪れるという盛り上がりを見せています。数々のイベントが開催され、東日本大震災後に風評被害を受けていた茨城県の復興にも繋がっているそう。
そんな茨城県にゆかりのある作品である「ガールズ&パンツァー」とのコラボレーションしたのが、茨城県を代表する伝統工芸品である「笠間焼」。アニメのイメージである”かわいらしい色合い”や、”強く優しい少女たちを表現した風合い”で、温かみのある焼き物に仕上がっています。
4.オタク職人集団の情熱が生んだ名品、「高岡銅器×天元突破グレンラガン」
(出典:グレンラガン五月人形兜飾り)
富山県高岡市で盛んな「高岡銅器」の職人で形成されているグループ「高オタクラフト実行委員会(=高オタ)」は、アニメが大好きという共通の趣味を持って集まっている職人集団です。「高岡銅器」は分業制で作られているため、本来であれば携わる職人同士の交流は少ないのですが、伝統工芸を見直すためにアニメという共通の趣味で結束した”高オタ”は、「趣味の世界を伝統工芸でいかに再現するか?」をめぐって議論を白熱させています。
その高オタの職人達が「好きなものを作ろう」と思い立って作られたのが、アニメ「天元突破グレンラガン」の主人公が乗っているロボットがモチーフの「五月人形兜」です。メンバーが大好きな「グレンラガン」について熱く語り合い、普段よりも高級な技術を使って作った“本気”の作品。材料費度外視で制作したため30万円と言う高い値段を付ける事になりましたが、展示会では高い評価を受け、受注を受けるにも至ったそうです。
五月人形は武者の姿を象った雄々しい姿をしています。グレンラガンで熱く震えた男達の魂を込めるにはぴったりの題材だったようです。
アニメと伝統工芸が導く可能性とは?
アニメと伝統工芸という、一見全く別物のように見える2つの文化。しかし、今回ご紹介した例を見ていくと、作り手が現状に満足せず、常に前進・進化し続けるという点は共通していることが分かります。
伝統工芸は現代のアニメのように時代や流行に合わせてしなやかに伝統を築き、アニメは伝統工芸のようにポリシーを貫いてそれぞれの特色を作品として確立していくのです。
このように2つの文化には、細部にまでこだわって貪欲に良い物を追求していく「職人の心」があり、これは日本が世界に誇れる技術の核となるもの。アニメと伝統工芸のコラボレーションは、これから日本の文化をさらに成長させていくきっかけとなるでしょう。