ガガーリンが人類初の宇宙空間到達者となったのは、1961年。以降、50余年経過した現在も、いまだ宇宙は”圧倒的荒野”であり、我々人類は未開拓です。しかし、宇宙開発への飽くなき情熱は、テクノロジーという武器となり、パワフルに大気圏を突破し続けています。
その先鋒にいる代表者こそ、皆さんもご存じの宇宙飛行士です。が、憧憬の眼差しを向けられる彼らも、一人の人間。宇宙ではテクノロジーに守られなければ生きていけませんし、地球と同じく衣食住が不可欠です。今回は、人類のトップランナーたる宇宙飛行士の衣食住が、一体どのようなテクノロジーでできているのか見てみましょう。”宇宙という非日常”の日常とは!?
【衣】自動で温度調節!?最先端宇宙服の驚きの機能とは
宇宙での生活で一番気になるのが、「宇宙服」。
宇宙飛行士が宇宙船の外に出るときに着用するもので、「宇宙の真空状態・熱環境から身を守る」「どのような作業条件下でも、宇宙服内の温度を一定に保つ」「酸素を供給する」といった役割があります。
「宇宙服」と聞けば、誰もが白く厳重に装備された”あのスーツ”を思い浮かべることができますが、果たして最先端の宇宙服にはどのようなテクノロジーが使われているのでしょうか。
最先端の宇宙服として世界の注目を集めているのが、この「オルランMKS」。ロシアの大手航空機用機器開発・製造ホールディング「テフノディナミカ」が開発しました。この宇宙服には、従来の宇宙服が備えていない特徴が3つあります。
1つ目は、世界初の自動温度調整システム。宇宙飛行士の体温を正確に把握し、その人に適した温度調節を自動で行うというものです。これまで、宇宙飛行士は船外活動を行っている間、体温のモニタリングや調整をしなければなりませんでした。コンピュータによって自動的に温度調節されることで、宇宙飛行士が体温調節を気にすることなく、船外活動に集中できるのです。
2つ目は、ポリウレタンの密閉レイヤー。宇宙空間では、宇宙服から空気が漏れてしまうことは絶対に許されません。そのため宇宙服の密閉度をどのようにして高めるかということが課題になります。ゴムだった密閉レイヤーの素材をポリウレタンにすることで、耐久性・軽量性が向上し、船外活動回数を15回から20回まで増やすこと、そして耐用年数を4年から5年に伸ばすことに成功しました。
3つ目は、着やすさ。これまで宇宙服は、他の人に手伝ってもらいながら、約1時間かけて着用していたのを皆さんご存知でしょうか。「オルランMKS」装着に必要な時間は、なんとたったの5~7分程度。その上、人の手を借りることなく自力で着ることができるようになるそうです。
と、ここまでは宇宙空間で生きるための「衣」のお話ですが、宇宙船内で着用する服にも、最近変化が出てきました。「宇宙にファッションの時代が到来する」ことを予感させる研究も進められているのです。
日本を代表するデザイナー山本耀司と、アディダスがコラボしたブランド「Y-3(ワイスリー)」が、宇宙旅行ビジネスを行う民間企業ヴァージンギャラクティック社と共同して、宇宙飛行士用のフライトスーツとブーツを開発を進めていると発表されました。
これまでの宇宙服のイメージを覆すような洗練されたデザイン。まだ試作品段階ではありますが、これまでの「機能性だけを重視する時代」から、「ファッション性も追い求める時代」へと変化する大きな一歩となることでしょう。
【食】3Dプリンターの描き出す「宇宙ピザ」が見せる食の未来
続いて紹介するのは、宇宙飛行士の食事情を支えるテクノロジー。宇宙ステーション内で長期滞在する宇宙飛行士にとって、貴重な息抜きの時間が食事です。この時間をより豊かにするべく誕生したのが、最先端の3Dプリンターで”出力”する 「宇宙ピザ」です。
なんと、粉末と水だけで調理が可能であり、長期保存にも対応している優れものなのです。さまざまなフレーバーのついた素材を順番に射出し、ホットプレートで焼き上げるという工程を経て、たった20分ほどで焼きたてのピザが食べられます。
3Dプリンターピザ http://t.co/bpzNglLPQz NASAが12万5千ドルの助成金を出した食品出力可能な3Dプリンターによるピザのプロトタイプで原料カートリッジは30年保つんだって。70秒で調理が可能。出来上がりはこれ pic.twitter.com/e340jmCn3c
— たけぽんFX(アドセンスクリック4649 (@TakeponFX) 2014年2月2日
まだまだ改良が必要とのことで、正式な採用には至っていませんが、このプロジェクトにはNASAも出資しており、宇宙でピザが食べられる日も近いでしょう。
3Dプリンターによる食事提供が一般的になれば、我々の生活にも影響大です。「家に居ながらにして、レシピを入力すれば、自分の好きな料理を出力できる」時代が到来するのではないでしょうか。
【住】排泄物を再利用!?資源なき宇宙に長期滞在するための工夫とは
3つ目は、宇宙での住環境。ここで大事なのは、人類は切っても切れない習慣である、トイレです。宇宙での生活において「トイレをどうするか」ということは、非常に大きな問題なのです。
現在使われているのが排泄物を掃除機のように吸い込む方式。見た目は洋式トイレに似ますが、無重力状態でトイレをするために、体を固定するベルトが取り付けられているところが宇宙仕様です。
科学未来館にGAME ONの企画展観に来たんだけど、印象的なのは宇宙ステーションのトイレの展示 pic.twitter.com/1r0BkemFEv
— You Die !! (@shrimpbass) 2016年3月14日
最近ではさらなる根本課題の解決のため、「排泄物を再利用できないか」という研究も盛んに行われています。
尿を再利用する仕組みは既に出来上がっており、水が貴重な国際宇宙ステーションでは尿をろ過して水資源として再利用するテクノロジーが使われています。まず最初に行われるのが、尿を加熱して水蒸気にし、それを水に戻す蒸留処理。
こうして出来上がった水は不要物の分解・殺菌をされた後、飲料水として利用されます。「本当に飲んでも大丈夫なの?」と心配になりそうですが、味はいたって普通とのこと。
便を再利用する研究も現在進行中です。アメリカのサウスカロライナ州にあるクレムゾン大学のチームが、NASAから 年間20万ドル(約2,400万円)の助成金を受けて研究を行っていますが、今後どのように実用化されていくかが、注目されるところです。
廃棄物を最小限にとどめることができるこうしたテクノロジーは、資源を有効活用する手段として、私達の実生活に活用できそうです。
世界で唯一打ち上げ失敗ゼロ!宇宙に物資を運ぶ日本の「こうのとり」
こうした宇宙の衣食住を支えるために必要になるのが、「宇宙に物資を運ぶ」ということ。そこで日本のテクノロジーが活躍しています。それは、宇宙ステーション補給機 「こうのとり」です。
国際宇宙ステーション(ISS)には、水、食料、衣料などの生活物資や、定期的に交換が必要な機器などを継続的に運ぶ必要があり、日本が打ち上げる宇宙ステーション補給機「こうのとり」は、年1機程度打ち上げられ、さまざまな荷物を運んでいるのです。
ロシアやアメリカといった”宇宙先進国”でさえ、補給機の打ち上げ失敗をしている中、「こうのとり」は 世界で唯一失敗ゼロ。これからも宇宙の生活を支えていくことが期待されています。
宇宙におけるテクノロジーが見せてくれる未来予想図
人類の宇宙ライフを支えるには、様々なテクノロジーが必要です。こうしたテクノロジーは、紹介した3Dプリンターによる食事提供や排泄物の再利用のように、地球上での生活でも活用できるものが少なくありません。
「人類が宇宙に近づけば近づくほど、それに伴い地球に住む私達の生活が豊かになるモノが生み出されていく」こうした視点に立ってみると、私達が関わることがない途方もないものであった宇宙研究が、とても身近なものに思えてきます。これから宇宙についてのニュースに触れるときには、「今後私達の生活にどのように活用されていくのだろう」と考えてみるのも楽しいかもしれません。