慶應大学、総合政策学部・環境情報学部・看護医療学部(通称:SFC)の「ORF」というイベントをご存知ですか?
SFC生による研究成果の展示と発表、各界知識人のトークセッション、来場者が参加することができるワークショップなどが催されている、毎年恒例のイベントです。
ORF2015のテーマは「100年後の社会をつくること」。
21世紀の私たちの生活に深く根ざしている様々な科学技術・社会制度・産業は、その原型が100年前には作られていました。未来に目を向けてこのことを考えみると、100年後の社会に浸透しているであろう技術や制度、産業を、今、芽生えさせなければならないと言えます。その芽とは一体何でしょうか?
慶應大学SFCの学部長は、25年前に学生を指して「未来からの留学生」と表現したとのことです。未来の目で、今を考え分析し、今ある問題を解決しつつ、新しい何かを常に作り出していくことが役割であると考えています。
では、そんな「100年後の社会に浸透するもの」をつくるSFC生の研究をご紹介します!
多様な20年住宅を10000戸つくるための仕組みをつくる
現在の日本では、大家族から核家族、独り暮らしなど、家族の在り方が変容しているにもかかわらず、住宅の在り方が変化していません。多様化したライフスタイルに応じるためには、200年住宅などという永続性な住宅ではなく、短期間で建て壊しのできる建築の仕組みを考えることで、永続性を持続させることが可能になるだろう、という考えをもとに研究されているのが、「20年住宅を10000戸つくる」ための仕組みです。
ここに展示されているのは、建物の設計図です。住む人の多様化したニーズをプログラムをして、要望によって自動で設計できるようにシステム化されています。
部屋の数や、お風呂やトイレなどの種類を決めることで、それぞれの部屋がどう隣り合うのが丁度良いか、ドアの位置・開口部・屋根の計算・構造計算・柱・梁が順番に設計され、建物になります。
できた建物は、「視線」「動線」「空間」の関係性によって評価されます。開放的だけど人の目にあまり触れないような建物の設計にしたければ、「動線」「空間」を多く取って、「視線」をあまり取らない…など、人の多様なニーズにこたえることができます。
「自分ゴト」にしよう!ワークショップ
「自分ゴト」にしよう!ワークショップは、建築や都市、まちづくりなどに関わる問題に積極的に関わり自分のこととして考えることで、それまで知らなかった新しい世界を見てみようという試みです。
こちらの研究室では、災害や国の情勢によって住居に不自由している場所で、家や家具を簡単につくることができる「べニアハウスプロジェクト」という試みを行っています。釘やドリルを一切使わず、べニア板を特殊な機械で切ることによって、木材同士の切れ目を繋ぎ組み立てることができます。
こちらは、机を組み立てるワークショップです。
この研究は東日本大震災がきっかけに立ちあがり、機械さえあれば、現地の材料を切ることで家を組み立てることが可能になる画期的なものです。現在はネパールでも活用されています。
看護×Fab – デジタルファブリケーションが拓く新しいケア
3Dプリンターを看護に応用することで、患者さんの身体的特徴や、生活環境にフィットした専用の用具が作成できるようになります。医療の現場に役立つプロダクトを開発している研究室です。
こちら全て3Dプリンターでできた製品。右側の人の頭の形をしたものは、看護士や家族の手技のためのシミュレーションに役立ちます。中央の象の形をしたものは、気管切開チューブという管を取り回すためのクリップだそうです。象の形をしていることで癒しの要素を現場にプラスされます。このように、デザインや素材・形を柔軟に変え、様々なニーズに応えることができるのが3Dプリンターを活用する利点です。
編み・縫いのデジタルファブリケーション
「数学を解くことで、人間の知を広げられるのです」と、とても楽しそうに語ってくださった對馬尚さんは、オイラー数の研究をされています。どうしたら小さい面を敷き詰めることができるのかを計算することで、今までつくれなかったものができるようになるのです。その計算の結果を使って、小さな面積を埋める手段が鉤針編み。なぜなら編み物は糸のループを絡めて形をつるので、そのループを計算ができるためです。それを実践したプロダクトが写真で對馬尚さんが手に持っているものです。
ものづくりの手法が多く開発されてゆく中で、糸や柔らかい素材を使った手芸の分野にデジタルファブリケーションのアプローチをとることで、今までに見たことのない素材のものづくりを提案します。
爽やかな解散(モバイル・メソッド)
「爽やかな解散」というインパクトのあるネーミングに、思わず立ち寄ってしまいました。こちらは「モバイル・メソッド」プロジェクトの一環として、日常生活のなかにある「設営(集合)」と「撤収(解散)」に向き合う方法と態度について調査しているそうです。
たとえば大道芸人、ストリートミュージシャン、移動販売の屋台など、移動を前提とするさまざまな活動のフィールドワークから得られた知見をもとに、場づくりやコミュニケーションのあり方について洞察を加えます。
こちらは、移動式のラジオスタジオ。
こちらは移動式図書館。
「解散した後はどうなるのですか?」と伺ったところ、「爽やかに解散します」とのこと。再会の約束もしないそうです。移動していくことで生じるコミュニティ・コミュニケーション。興味をそそります。
慶應大学SFC生に脱帽!
どの研究も学生さんが熱く・丁寧に教えてくださるのでこちらも夢中になって聞き入ってしまい、こちらの知見を広げてくれる時間となりました。学生さんが自身の研究内容を紹介しているその姿勢は研究者そのもの。中には学部2年生もいたのには驚きです。
一見、敷居が高く感じる研究発表の場も、行ってみたら非常に楽しいです。
ものづくりやサイエンスの分野に興味がある方は、それに関わる第一歩としてぜひこのような場に足を運んでみてください。