”日本の伝統工芸品”と聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべるでしょうか。漆塗り?木彫りの人形?それとも刀剣類?
では、皆さんの手元に、このような伝統の一品はありますか。おそらく、答えはNOでしょう。
日本の職人が生み出す、こだわりの一級品は時として海外にもコレクターを生み出すほどの希少性を有します。が、その希少性や格式ゆえに、我々一般人の生活とは、どこかかけ離れたものにも感じられます。
しかし今、こうした距離感は徐々に縮まりつつあります。気鋭のデザイナーやアーティストなどが、日本の伝統的な技術を活用し、これまでにないほどにカジュアルで、”使いたくなる”プロダクトが次々と生み出されているのです。デザインマインドと伝統がマッシュアップして生み出されるプロダクトの最新形を、「インテリアライフスタイル展2016」の出展アイテムから探ります。
薄さを徹底的に追求!日常のシーンに陶磁器を「HASAMI Season05」―有限会社マルヒロ
長崎県波佐見町で陶磁器の商品企画開発を行う「有限会社マルヒロ」が立ち上げたのが、「HASAMI」と呼ばれるブランドです。”道具としての陶磁器”をコンセプトにしており、毎年”国”と”シーン”をテーマにコレクションを展開しています。
もともと、量産を得意とする波佐見焼は、成形、型起こし、釉薬、窯焼きという工程を分業して行うため、各分野において高い技術力を有していました。その高い技術力を多くの人々に使える形にしたのが、「HASAMI」です。
今回展示されていたのは、イギリスのパブで使われるようなお酒周りのアイテムを意識して作られた 「HASAMI Season05」。特徴は何と言ってもその薄さにあります。
エッジ部分を見れば、どれだけ薄いのかよく分かります。液状の素材を鋳型に流し入れる”鋳込み”成形の技術を使って、極限まで薄く成形させることに成功したといいます。外側は陶石と呼ばれる磁器素材をそのままに生かしながらも、ダイヤモンド研磨加工を施すことによって、さらりとした手触りに仕上がっています。
熱伝導の力で、カチカチのアイスを一瞬で溶かす魔法のスプーン「15.0%」―株式会社タカタレムノス
時計を中心としたライフスタイルに必要なアイテムを提供する、株式会社タカタレムノスがアイスクリーム好きに捧げるのが、「15.0%」と呼ばれるプロジェクトです。アイスクリームの定義が、”乳固形分15.0%以上”ということからこのプロジェクト名になったそうです。
株式会社タカタレムノスは、鋳物の生産が盛んな富山県高岡市で、栓抜きや箸置き、コースターなどを製造していました。これらの製品の新しいデザインをと依頼を受けたデザイナーが、「全く違うものを作りませんか」と提案したことによって生まれた商品なのだとか。
上の写真は、アイスクリーム専用のスプーンです。熱伝導率が非常に高い無垢のアルミニウムを素材としているため、スプーンを持つ手の体温がスプーンに伝わり、アイスを溶かしながらすくい出すことができるのです。「買ったばかりのアイスがカチカチに凍っていてすくえない!」という消費者の悩みを見事に解決するプロダクトと言えるでしょう。
こちらは、アイスクリームカップの断面。磁器製で中空のダブルウォール構造になっているため、熱が中に伝わりにくく、アイスを長時間溶かすことなく置いておくことができるのです。
「自分だけのアイスクリームスプーンをいつでも使えるように持ち運びたい!」という声に応えたのが、このアイスクリームストラップです。シリコン製のストラップをバッグやベルトなど、あなたの好きなところにつけて持ち運ぶことができます。
刺しゅう職人が紡ぐ、”新感覚”糸アクセサリー「000」―株式会社笠盛
創業明治10年、刺繍の老舗「笠盛」から誕生したテキスタイル・アクセサリー・ブランドが、この「000(トリプル・オウ)」です。
「笠盛」は織物の産地”群馬県桐生市”にある刺繍工場です。アパレル業界が先細りしている現状を踏まえ、加工を受けるだけでなく、自社で最終製品を作ってお客様に届けられるようにするためにできたブランドなのだそうです。
既成概念にとらわれない新しい発想をもとに、一針一針丁寧に時間をかけて作られているアクセサリーは、見る者を魅了します。
こちらは糸を何重にも重ねて制作された”スフィアネックレス”。真珠のような付け襟タイプのネックレスになっており、首元が寂しいときに使うととてもお洒落です。
刺繍なのにきらきらと輝いているアクセサリー。秘密は糸に施された特殊なラメ加工にあります。これによって、まるで貴金属のような輝きとしなやかさを醸し出しているのです。
積み上げ方はあなたのセンス次第!?大人の遊び心をくすぐる「TSUMIKI」―more trees design
積み上げられた芸術的なオブジェ。
これが”積み木”で出来ていると聞いたら驚くのではないでしょうか。
これは、音楽家・坂本龍一さんの呼びかけによって設立された森林保全団体「more Trees」プロジェクトの一環として生まれた「TSUMIKI」です。世界的建築家である隈 研吾さんがデザインを手掛け、宮崎県諸塚村にあるスギの木を使い、加工職人が現地でプロダクトを制作しているのだそうです。
適切な管理がされず、放置されてしまった森が増加している現状を受け、国産の木材を有効活用するためにこのようなプロダクトが作られています。
山の形をしたこの積み木を組み合わせて、自分の好きなデザインを作り出すことができるのです。実はこの積み木のデザインには、秘密が隠されており…
脚の部分をよく見てみると、独特なカッティングがされています。この切れ込みがあるおかげで、さまざまな角度から積み木を積み上げことができるのです。
このように、いろいろな積み上げ方をすることができます。気分に応じてすぐにデザインを組み替えることもできるので、あなたのインテリアに彩りを添えてくれること間違いなしです。
航空機部品の加工技術をユーザーが楽しむ商品に「NEIGHBOR」―有限会社シオン
最後は、航空機部品などの金属加工を行う町工場「有限会社シオン」が立ち上げたブランド 「NEIGHBOR」。職人の確かな技術をもとに、隣人に接するような思いやりを持ったプロダクトを提供する、という想いのもと、このようなプロダクトが作られたのだそうです。
上の写真は、貝殻のような形をした”灰皿”。使わない時にはフタをして灰が見えないようにすることができるため、インテリアとしても活用できます。ステンレス削り出しならではの重厚感が何とも魅力的です。
こちらは精巧にできた”コマ”。軸が全くぶれることなく回転するため、まるで静止しているように見えます。種類にもよりますが、長いものでは10分以上も回り続けるそう。昨年開催された、「第二回全日本製造業コマ大戦」では、見事に有限会社シオンが制作したコマが優勝を収めました。
美しい姿で長時間回る秘密は、中心部と外周部に重さの異なる金属を使用している点にあります。中心部に軽い超超ジュラルミンを、外周部には重さのあるタングステンを使用することによって、安定感のある回転を実現しているのです。
木工轆轤とネジ切り技術の融合によって生まれた「MokuNeji」―株式会社コトリク
最後に紹介するのは、木を使ってペットボトルや瓶のキャップを作っている 「MokuNeji」。石川県加賀市にある山中漆器産地で培われた木工轆轤(ろくろ)の技術と工業製品のように繊細なネジ切りの技術がかけ合わされてプロダクトが作られています。
山中漆器産地の轆轤の歴史は古く、奈良時代に全国の国分寺に奉納された”百万塔”が、この木地轆轤の技術で作られてたものとして知られています。工芸×工業をコンセプトにした「MokuNeji」シリーズは、私達が日常で使う道具に彩りを与えてくれます。上の写真は、ペットボトルにつけると赤ちゃんが使う「ガラガラ」になるというもの。持ち手はブナやカシの天然木を、塗装はすべて天然のえごま油を用いているので、赤ちゃんが口に入れてしまっても大丈夫なようになっています。
木を材料にしたネジ切りは非常に高度な技術を要求されるもの。アップで見ると、線の美しさが際立っており、いかに繊細に作り込まれているのかが伝わってきます。
デザインの力で、伝統工芸品をより身近なものに
職人が作り出す伝統工芸品は、これまで私達の生活からは遠い存在でした。しかし今回紹介したもののように、デザインの力を借りたり、他の技術とコラボしたりすることによって、私達が手軽に使える、”身近なプロダクト”に生まれ変わっているのです。
身近に使えるものへと進化した伝統工芸品は、他の製品には見られない魅力や輝きを放ち、持つ者に機能以上の喜びを与えてくれます。皆さんも、今回紹介したものを手に取り、実際に使ってみてはいかがでしょうか。