技術大国と言われる日本も、近年では自動車やテレビ、パソコンなどの分野における世界との競争で厳しい思いをしています。
手元の製品をとって見てみると、確かに海外メーカーによるものが少なくありません。しかし、その製品の内部に使われている細かな部品には驚くほど多くの日本製のものが使用されているのです。そうしたいわゆる”隙間製品”や”ニッチ製品”と呼ばれるものが日本の強みとして今も世界のトップに君臨しており、これが技術大国日本の底力と言えましょう。
そうした日本の技術力を世界にアピールし、日本の産業を発展させていくことを狙って、経済産業省が実施している面白い取り組みがあります。それは、「グローバルニッチ企業100選」。果たして、これはいったいどのようなものなのでしょうか。
グローバルニッチ企業100選の取り組みの概要
「グローバルニッチ企業100選」とは国際市場の開拓に取り組んでいる企業のうち、ニッチ分野において世界で高いシェアを持ち、良好な経営を実践している「グローバルニッチトップ企業(=GNT 企業)」の中でも特に優れている企業を選定し、今後支援していくというもの。
それではその「グローバルニッチ企業100選」には一体どのような企業が選ばれているでしょうか。専門的すぎる製品が多い中で、イメージしやすいものをいくつか紹介していきます。
【株式会社マスダック】どら焼きが開く世界のフードカルチャー
どら焼き機で国内トップシェアを誇る「株式会社マスダック」。長年のあいだどら焼き機という日本国内のニッチな需要を支えてきましたが、今後はあんこ菓子に馴染みのない海外のマーケットをどう開拓するかが課題でした。
そんなマスダックが海外へと進出する転機は、2002年のユーロパン(フランス)の展示会での、あるオランダ人との出会いにありました。よきパートナーを得たのち、世界中で親しまれている”チョコレートクリーム”のどら焼きを開発し、「サンドイッチパンケーキ」の名でヒットを生み出したのです。海外の人たちの好みに合わせた味を開発できたことで、世界進出を成し遂げました。
これからはどこの国に行っても、どら焼きが食べたくなったら「サンドイッチパンケーキプリーズ!」で懐かしの味を堪能できますね。
【天池合繊株式会社】世界のファッションシーンを魅了する脅威の織物
続く企業は世界の服飾業界のトップシーンに素材を提供する「天池合繊株式会社」。こちらの会社が作る織物「天女の羽衣」は、太さ5~7デニールという超極細繊維で作られています。デニールとは繊維の太さの単位で、一般的な売場にラインナップされているストッキングでは極薄と呼ばれるものでも20デニールですので、天女の羽衣はさらにその半分以下の軽さと柔らかさ。
「天池合繊株式会社」では独自開発の設備を用い、繊維を絶妙な密度で均等に配列することで細く仕上げることにより落ちる耐久性の課題を克服。そうして出来た織物はこれまでにない質感を表現でき、毎年のパリコレクションで欧州の有名ブランドから採用されています。
【株式会社ホプニック研究所】めがねの聖地、福井県鯖江市はレンズも凄かった!
めがねの聖地と呼ばれる福井県鯖江市でフレームではなく、レンズで世界トップに立つ企業がありました。それが「株式会社ホプニック研究所」。視力矯正用高屈折率偏光レンズで薄型・軽量・低コスト化を実現し、9割超という圧倒的な世界シェアを誇っています。屈折率とはレンズを通る光の進み方を表す指標であり、屈折率が高いほどレンズを薄くできますがその分耐久性が落ちてしまいます。しかし、同社ではレンズに薄さ40ミクロンの偏光フィルムを均一に挿入させる技術を持っているため、レンズが薄いのにも関わらず一定の耐久性を実現させました。
偏光レンズは光のチラつきを抑えてくれる効果があり、水面を見る釣り人や、スキーやゴルフなどアクティブな活動シーンで活躍するため、軽さは大きなメリットです。
汎用品から高性能な偏光レンズの開発に成功したことで、ニッチな分野で世界トップの座を射止めた例と言えます。
【末廣精工株式会社】職人技が生み出す高強度チェーンソーガイドバー
ニッチ分野でトップに立つ企業には、日本らしい職人技が生きている企業も。「末廣精工株式会社」はチェーンソーの刃の回転をガイドする鋼板「チェーンソーガイドバー」を製造しています。
「硬さ」と「粘り強さ」という鋼板の相反する特性を最大限に発揮するため、末廣精工では他に採用例のない技術にチャレンジ。特に耐久性が要求される先端部分には「手盛りガス肉盛溶接」という、鋼がガスの炎で溶け出す直前にステライト合金を一滴ずつ丁寧に落としていくという職人技術で高強度を実現しています。
【株式会社東振精機】これぞニッチ!日本で唯一の部品の中の部品製造メーカー
最後に紹介するのは、ころ軸受向けの「ころ」全品種を生産している日本で唯一のころ製造専門メーカーの「株式会社東振精機」です。
機械の回転運動を滑らかにしてくれる部品「軸受」はベアリングとも呼ばれますが、わりと名の知られているボールベアリングはリング状の2枚の板の間に鉄球を挟んでなめらかな回転を生み出すもの。一方、ころ軸受のころとはボール形ではなく円柱形のものを指します。
「株式会社東振精機」では特に樽形の球面ころにおいて、品質と生産性を上げ、新興国の市場シェアを堅いものにしています。
さらに多くのニッチ製品が世界を舞台に戦っている
ここで紹介したもの以外にも、細かな部品や「まさかこんなものまで」という驚きを感じるニッチ製品があと95もある「グローバルニッチ企業100選」。
さらに、これから世界を獲りそうな企業や、新たなプロダクトが今も次々日本で生まれています。
世界に技術力で挑む日本のものづくりに、今後ますます注目です。