自動車の誕生は、今から遡ること約250年前。
フランスの軍事技術者だったニコラ=ジョセフ・キュニョーが、蒸気で走る自動車を発明したのが始まりでした。その当時、日本はまだ江戸時代後期。
これほどまでに歴史が深い自動車。その誕生から現代に至るまで、自動車は私達とともに歩み、進化を重ねてきたのです。
「車に乗っているだけで、目的地まで勝手にたどり着いてくれる」「車は夜中に家のコンセントにつないで充電しておくだけでOK」自動車が誕生したばかりの時代の人々にとっては、夢物語でしかなかった光景を見ることができる時代が、実は間近に迫っています。果たしてこれから自動車は、どんな未来を私達に見せてくれるのでしょうか。
今回は、先に開催された「人とくるまのテクノロジー展2016」に展示されていたものを中心に、EVと自動運転技術のいまを紹介していきます。
走行距離も延長中!EVの登場によって”クリーン”が加速する
EV(電気自動車)という言葉を聞くと、ごく最近の技術のように思えますが、意外にもその研究の歴史は古く、1873年にイギリスの発明家ロバート・ダビットソンが実用電気自動車の開発に成功しているのです。日本では、1899年に在日アメリカ人がアメリカ製の電気自動車を輸入したのが始まりです。では、黎明期から100年以上経った現在、EVの研究はどこまで進んでいるのでしょうか。
今回紹介するのは、大手自動車メーカーの「ホンダ」が、2年後の2018年を目途に発売することを計画している「EV-Cub」。
2016年2月に会見を行った同社社長・八郷隆弘氏は、「Hondaらしい新たな価値の創造」という項目で電動化技術の強化を提示しています。その中で実現しようとしているのが、この「EV-Cub」です。「環境にやさしく」「世界中の人々に愛され、生活に役立つ」存在でありたいというコンセプトのもと、初代スーパーカブが持つ「扱いやすく経済的な二輪車」という設計思想が継承されています。
「EV-Cub」は電力を動力源としているので、家庭用コンセントで充電することができます。現行の二輪EVと大きく異なる点は、1回の充電で走ることができる距離です。2010年にホンダが発表した「EV-Neo」の航続距離は、1回の充電で約30km。一方、新型「EV-Cub」は50km以上の航続距離を目標としています。
ホンダのEVの特徴としてもう一つ挙げられるのが、この給電器です。これは、外部から自動車に充電するのではなく、自動車の中にある電気を一般家庭用電気に変換・出力することができる装置なのです。この技術があれば、災害時に電力がなくなってしまった際に、自動車の電気を活用することが可能になります。
街中におけるEVの充電スペースも急速に拡大しており、現在国内で約2万カ所もあるとのこと。今後さらに充電にかかる時間が短くなれば、環境にもやさしく、手軽に充電をして走らせることができるEVは、さらに広まっていくのではないでしょうか。
EVと自動運転の融合!?日産が見せる、EVの新たな付加価値
続いては、日産が行っている最先端の研究について見ていきましょう。まず最初に、EVの性能を高める新しい電動パワートレインについて紹介します。
”パワートレイン”とは、エンジンによって発生した回転エネルギーを効率良く駆動輪に伝えるための装置群のこと。EVとして最適な性能を実現するために、日産は独自開発したユニットによって電動パワートレインを構築しています。減速時のタイヤの回転によって発生する運動エネルギーを、電気エネルギーとしてバッテリーに充電することができるなど、ガソリンエンジンと比較してエネルギー効率が非常に高くなっています。
また、電動パワートレインに内蔵されているモーターは、エンジンに比べて応答性が良く、アクセルを踏んだ際の加速レスポンスが大幅に上がっています。これまでEVは、燃費性能や環境性能といった機能的な要素が商品の重要な価値とされていました。が、スポーツカーのように”乗ることを楽しむ”というステージまでEVを高めようとしているのです。
日産でEVと言えば、「リーフ」。2016年5月に開催された伊勢志摩サミットで提供された自動車として、話題になりました。日産は、この自動車にEVと自動運転、両方の技術を搭載しようとしているのです。
日産が開発した自動運転技術 「プロパイロット」は、小型・高性能なレーザースキャナーと360°の視野を持つ8カメラシステムという2つの革新的特徴を備えています。これにより、狭い場所や交差点、そして複雑な道路状況でも走行することができるのです。現在発生している交通事故の9割は、ドライバーのミスによるものと言われています。自動運転によるドライバーサポートの実現は、多くの交通事故を抑止する効果が期待できます。
最近では、ロボットタクシー株式会社による”自動運転タクシー”の実証実験が藤沢市で実施され、被験者51人全員が安全に実験を終えるなど、自動運転車の用途を広げる研究も着実に進んでいます。自動運転が本格的に広まっていけば、適切な運転システムにより、渋滞を最小限にとどめることができます。また、将来的に自動運転の精度が上がっていけば、車を運転することのできない高齢者の移動手段として活用できる時代も来るでしょう。
最新HMI技術で脇見運転まで感知!?事故発生のリスクを大幅削減させる運転支援システム
安全で快適な車社会を実現するというコンセプトのもと、三菱電機株式会社が開発したのが、次世代の運転支援技術を搭載した「EMIRAI3 xDAS(イーミライスリーエックスダス)」です。見た目のデザインは、さながらSF映画に登場する、未来の車という雰囲気です。
その特徴は、最先端のHMI技術。HMIとは”ヒューマン・マシン・インターフェース”の略で、人間が機械を操作するときに使う手段や道具のことを指します。温度調整や音楽のボリューム調整を行う際の手の動きを感知し、手元を見ることなく車載機器の操作を行えます。車載機器の操作に気を取られことによって発生する事故を、抑止するのが狙いです。
その他にも、事故を未然に防ぐ工夫が充実しています。例えば、車内に設置された近赤外カメラは、運転者の顔の向き・視線・開眼度などの顔情報認識します。さらに非接触生体センサによって、運転者の心拍数を把握し、脇見運転や居眠り運転、さらには漫然運転(考え事をしながら運転している状態)の防止に役立ちます。センシング技術の進化によって、運転手の様子を車が検知するのです。
このように、運転に安全性・快適性付加するシステムが整っていけば、運転技術に自信がない人であっても、より安心して自動車を運転することができるようになるのではないでしょうか。
自動運転の次は”自動運転ロボット”!?「MOTOBOT」が世界最高のバイクレーサーに挑む
違ったアプローチで自動運転の研究に取り組んでいる企業もあります。
ヤマハ発動機が開発した「MOTOBOT」は、自動車の自動運転化ではなく、ヒト型ロボットが通常の車両を運転するというものです。スピード・エンジン回転数・姿勢などの情報をロボットにインプットし、自律的な車両の運転操作を行うのです。
こちらの動画は、史上最高のライダーとの呼び声も高いバレンティーノ・ロッシに向けられた挑戦状。
近いうちにロッシとの対決も実現するとのことで、バイクという運転が難しい乗り物において「MOTOBOT」が勝利するならば、それは人間以上の運転技術をロボットが備えているという証明になり得ます。対決の行く末には、世界中のバイクファンが熱い視線を送っています。
今後は、人工知能(AI)を搭載することによって、ディープラーニング機能で学習し、周回を重ねるごとに運転技術を向上させることも期待されています。この研究が進んでいけば、自動車の”無人運転ロボット”の実現も、現実味を帯びてくるのではないでしょうか。
あなたが次に買うのは未来のクルマ!?私達の暮らしを豊かにする自動車技術に注目
自動運転やEVの技術の発達は、車で移動する際の「安全性」「快適性」を大きく向上するものとして、注目を集めています。次に皆さんが買う自動車は、今回紹介したような”未来のクルマ”かもしれません。
自動車の技術が発達することによって、これまで自動車の恩恵を受けることができなかった人に対しても、豊かさを提供できる世の中が実現されることを楽しみにしましょう。