製造現場はおろか、ファブ施設、果ては一般家庭まで、3Dプリンターが徐々に浸透しつつあります。特別な技術や設備を持たずとも、立体造形物を作り出せる3Dプリンターは、 ものづくりの概念を覆す存在として注目されています。
しかし、3Dプリンターで出力するためには、一体どのような元データが必要かご存じでしょうか。例えば、文書を印刷するにはそのwordデータが必要なように、3Dプリンティングにも元となるデータが必要です。今回は3Dプリンターが必要とするデータの基礎をお届けします。
頂点・線分・面などの情報を数値化!製造業向けの3Dデータ作成ソフト「3DCAD」
三次元で図形を作るソフトの大定番が 「3DCAD(3Dキャド)」です。CADはComputer Aided Designの略で、コンピュータ支援設計とも呼ばれています。3DCADは、その輪郭のみを表現する「ワイヤーフレーム」、枠組みに加えて面も表現する「サーフェス」、そこにさらに立体の中身まで表現する「ソリッド」といった種類に分けられます。
「ワイヤーフレーム」「サーフェス」が体積を持たないのに対して、「ソリッド」は体積を持つデータなので、体積や重量、そして重心などといった計算をすることができるのが特徴です。3Dプリンターを使う際に用いる3DCADは「ソリッド」であることがほとんどです。
上の動画は、3DCADを用いて時計を作っている様子です。部品の位置や長さまで細かく設計できることが分かります。従来3DCADは建築設計で使用することが多かったのですが、3Dプリンターの登場によって、一般の人が使う機会も増えてきました。近年3DCADは無料で使えるものも増えてきており、使い方さえ勉強すれば、誰でも使うことができるようになっています。
続いては、3Dデータを作るためのもう一つのソフト「3DCG」について紹介します。
物体の表面を細かな三角形に分割!デザインや映像分野で用いられる「3DCG」
「3DCG」は、デザインや映像分野で用いられることが多いソフトです。3DCGの図形は、ポリゴンと呼ばれる三角形や四角形など、多角形の組み合わせによって表現されることが多いのが特徴。上の映像は、ドラえもんの映画が3DCGを用いて制作されていることを紹介した動画です。物体の表面を細かな三角形に分割・数値データ化することで計算をしやすくし、視点を変えた際、物体がどのように見えるのかということも、画像として描くことができるようになっているのです。
3DCGも3DCADと同様にフリーソフトが出ているので、一般の人でも使うことができます。各部品の寸法まできちんと計算したい場合には3DCADを、厳密な計算をせず、フィギュアなどのように感覚的な曲線を描きたい場合には3DCGを使うのがおすすめです。
ここまで、3Dデータの作成ソフト「3DCAD」と「3DCG」をその違いとともに見てきました。次に、データの保存形式である「STL形式」について紹介します。
物体を三角形の集合で表現!3Dデータの拡張子「STL形式」
ファイル形式という言葉を聞いてピンとこない方も、「<ファイル名>.doc」や「<ファイル名>.xls」は見たことがあるのではないでしょうか。それぞれのファイルには保存するときの形式(拡張子)が存在するのです。3DCADや3DCGを使って作り出した3Dデータを保存するためには、「STL形式」(「<ファイル名>.stl」)と呼ばれるファイル形式で保存をする必要があります。
このファイル形式は1980年代にアメリカで開発されたもので、物体の3Dデータを三角形の集合として表すのが特徴です。立体の内部については認識されないため、中身をどうするのかということについては、各ソフトで設定を行う必要があります。
ここまでご紹介したのは”3Dデータをソフトウェアで作る”方法です。では、これらのデータがなければ、3Dプリンターで出力することはできないのでしょうか。続いては、3Dデータの作成が難しい場合に使える方法について紹介します。
レーザーを当てて物体の情報を取得!医療の現場でも使われている「3Dスキャン」
データを自作するのが難しい場合の使われる方法の代表格が、「3Dスキャン」です。レーザーを物体に向かって当てて、光が跳ね返ってくる時間とレーザーが当たる角度から計算して、3Dデータを作るというもの。3Dスキャンはその精度によって、価格が数万~数百万円と大きく異なります。
また、医療用の模型を3Dプリンターで作る場合には、CT断面のデータが使われています。
こちらの動画を見ると、「CT断面→3DCT(断面データをもとに立体化)→STLデータ→3Dプリント」という流れで胸骨が作られる流れがよく分かります。3Dプリンターによって臓器や血管をつくる研究がされているなど、これから医療の発展を加速させる大きな役割を担うことが期待されています。
3Dデータを”共有”する新たな試み。ホンダが歴代のコンセプトカーの3Dデータを公開
3Dデータは自分で作るだけでなく、他の人に共有することができるのも大きな特徴です。大手自動車メーカーのホンダは2014年、これまでに発表したコンセプトカーの3DデータをHonda 3D Design Archivesと呼ばれる特設サイトに公開しました。このデータを使って3Dプリンターの印刷を行えば、誰でもホンダの自動車を作ることができるようになっているのです。
3Dプリンターのこうした利用は、これまでメーカーが商品を一方的に発表するだけだった常識を、私達一般人との”共有”という双方向のやり取りへと変える取り組みとして、非常に注目が集まっています。
データでものづくりができる意味
3Dプリンターで出力するために必要なのは、ここまで紹介した”データ”です。これまで製造においては図面や製作手順などが不可欠でした。が、3Dプリンターの場合、必要なのはデータのみ。つまりこのデータを共有するだけで、遠隔地でも、3Dプリンターさえあれば、同一のものが製造できるのです。機材運搬などの必要がなく、まるでファックスを送るように同じモノが作れる、という事実は製造業に大きなインパクトを与えたのです。
3Dデータを書くという行為はまだ一般的ではありませんが、将来はゲームソフトを貸し借りする感覚で、自分の作った立体造形のデータをやりとりす時代が来るかも知れません。