金属加工の産地とも言われている新潟県。夏休みには子供たちに向けてキッザニアでワークショップが開かれ、職人たちの作業現場を一般客向けに開放して身近で見ることができたり、実際にものづくりを体験できたりする施設が多くあります。
特に工具作りには長い歴史があることで有名です。使う人が心地良く、もし壊れたら修理ができるように、用途に合わせて職人がひとつひとつこだわってつくっています。だからこそ現代でも燕三条の職人たちの技術力の高さと、こだわりが評価され受け継がれているのです。
高品質な工具をいかに安定してつくるかが鍵
新潟県では精密な工具が有名ですが、それを台等しているのがマルト長谷川工作所。創業1924年の老舗で、テレビや雑誌、各メディアで何度も紹介され技術力と品質の高さに定評があります。特にペンチやニッパー等の作業工具、理美容用爪きり等が有名で、30年以上続けてグッドデザイン賞を受賞し、70点以上の各種デザイン賞を受賞しているほどです。
なぜ、マルト長谷川工作所は高評価な製品を製造できるのか。それは高度な技術を持っているのはもちろん、徹底的に製造過程の無駄を排除して「高品質な製品」を「安定的に」製造できるようになった結果なのです。
製造業は性質上、同じものを大量に生産しなければ採算が取れない仕組みになっています。製造に必要な金型を作り、製造ラインを確立しなければならないため、初期投資がかさみ大量生産をして売らないと赤字になってしまうためです。
少量の生産でも依頼したい、などのお客様のニーズにこたえられるように独自の生産方式として、1人が複数の加工機械を操作可能な「多工程多台持製造ライン」をはじめ、品物の運搬経路や部品・資材の在庫管理に至るまで、工具をつくる為に必要な50以上の工程全てを社内で行い、徹底して無駄を排除しているのです。機械化はコストダウンのために重要であるとともに、品質の安定化のうえでも必要不可欠なためです。すべての製品は、熟練工が最終仕上げの調整を行い出荷します
この生産方式を導入後、「必要なものを」「必要な時に」「必要な数」製造することが可能となりました。同じものを大量に生産しなければいけない従来の生産方式と違い、お客様のニーズにスピーディーに対応し、開発や製造に反映させることが出来るのです。
それによって安定した品質のままお客様へ供給可能になったのが他社との差別化となっています。
世界を相手に競争で勝つために
新潟県は関西と二分する作業工具の産地なのですが、後発産地であったので国内市場が既に関西に押さえられてしまっていて、主な販路を海外に求めざるを得ず、海外市場志向になったという背景があります。戦前から作業工具を製造してきたマルト長谷川工作所も例外ではなく、約 5 割を海外 20 カ国以上に輸出しています。
ここまでの効率化を求めたのは、高品質を強みにするとはいえ、世界の競合相手に勝つにはコスト競争力を身に付けるための生産方式を手に入れるのが必須だったのです。
コストダウンも必要だが、最高級の品質で適正なコストを実現・維持するためには各工程が高いレベルで安定して行われなければならず、機械化の推進と、熟練技能の組み合わせが総合的な競争力の源です。
その他、低価格で勝負するのではなく、価格設定で有利な海外代理店への直接貿易のかたちをとっているなどの工夫もあります。
江戸時代から受け継がれる伝統技術
世界でも知名度が高い燕三条の技術力は、江戸時代から代々伝統として受け継がれてきました。現代では他国への輸出や人材育成で販路の拡大、後継者不足を解消すべく、伝統技法が受け継がれるよう市や国全体で対策を取りながら世界へ日本製品の良さをアピールしています。
▼出展:
地場産業の現状と課題
http://www.shokosoken.or.jp/chousa/youshi/21nen/21-1.pdf
マルト長谷川工作所
http://www.keiba-tool.com/introduction/quality.php