地域、そして産業の活性化へ。「世田谷ものづくり学校」が“ものづくりのうねり”を生み出す

地域、そして産業の活性化へ。「世田谷ものづくり学校」が“ものづくりのうねり”を生み出す


“ものづくりの場”と聞いて、皆さんはどのようなイメージを持ちますか。

「ものづくりが体験できる」と想像する方が多いのではないかと思います。しかし、“場”が持つ可能性は、体験にとどまりません。その地をランドマークとして“ものづくりの街”を作ることによって、地域や産業を活性化させようと試みる施設があるのです。

今回は、ものづくりを行う人たちに働くスペースを提供するだけでなく、一般向けのものづくりイベントを多数開催してにぎわいを見せる、「IID 世田谷ものづくり学校」を取材しました。館内を案内してくれたのは、同校を運営する株式会社ものづくり学校の広報担当・大前敬文さん。ものづくりの場が、いまどのような機能を果たしているのか、見ていきましょう。

中学校の校舎を活用!?「産業活性化」という区の課題を受けて誕生した

img_6520▲グラフィックデザイナー山崎正樹氏のデザイン事務所「hiyocostudio」。 広告、書籍、WEB、イラストなど、多種多様のグラフィックデザインを取り扱っている。

―それでは本日はよろしくお願いいたします!世田谷ものづくり学校内にある部屋にお邪魔させていただいております。とってもおしゃれな部屋ですが、中にいらっしゃる方は仕事をされているのでしょうか。

大前:こちらこそよろしくお願いします。この施設は、もともと中学校の校舎だった建物を活用して、オフィススペースやイベントスペースとして貸し出しています。ちなみにこの部屋、実は「配膳室」だったんですよ!

―配膳室!言われるまで全然気がつきませんでした(笑)。それにしても、学校を活用するなんて斬新なアイディアですね!

大前:2002年にここにあった中学校が廃校になることが決まったんです。それに伴って開かれた区の会議で、「この場所をどうしようか」という話になり、さまざまな案が出されました。高齢者の方が使えるスペースや、公民館のようなスペースにしようという意見も多かったのですが、当時世田谷区は、「産業活性化」を課題としていたこともあり、民間企業からも活用案を募ることになったんです。

―なるほど。そこではどのようなプランを提案されたのでしょうか。

クリエイターにとっても、一般の方にとっても、ものづくりが楽しめる場づくり。そして、この場を中心として地域や産業を活性化させていくプランを考えました。私たち株式会社ものづくり学校の親会社が提案した、区の方針にマッチした新しいかたちの廃校活用案が採用され、「IID 世田谷ものづくり学校」を設立することになったのです。

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―そうした経緯があったんですね。休日は一般の方も多くいらっしゃるんですか。

大前:はい。ここでは週末を中心にイベントを開催しています。年間のイベント数だと600~700くらい。イラストやフラワーアレンジメントなど、ものづくりが好きな大人向けのイベントから、ものづくり体験教室のような子供向けのイベントまで、どの世代の人にも楽しんでいただけるように、いろんなジャンルに渡って実施しています。

―子供も大人も一緒になって楽しめるようなイベントがあっていいですね!こんな施設が出来て、地元の人たちも喜んでいらっしゃるのではないですか。

大前:実は、最初の方は反対の声が多かったんですよ。

反対多数からの設立。地域の方々からの理解を得るための道のり

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―そうなんですか…!こんなにたくさんの方が来場している現在の様子を見ると想像できませんが。

大前:この辺りは住宅地で、長く住んでいる方も多くいらっしゃいます。そういう方々からすると、自分たちが通っていた学校を、「クリエイター」っていうよく分からない職業の人がオフィスとして使うことに、抵抗があったんだと思います。自分の住み慣れた街が変わっていくことに不安を感じるのって当然のことですよね。

私たちとしても、「住民の方々が感じている不安を解消していかなければ」ということで、定期的に住民の方を集めて説明会を開くようにしたんです。隣の小学校の校長先生や副校長先生、PTAの方や町内会の方をお呼びして、「こういう場合はどうするのか」といった質問に1つずつ答えていきました。初めはこれを月1くらいで開催していたのですが、次第に理解をいただけるようになり、今では年数回の報告会をするのみになりました。

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▲施設内には、3Dプリンターやレーザッカッターを使って誰でもものづくりができるスペース「FabLab Setagaya at IID」がある。写真は3Dプリンターを使って出力した作品群。

―説明会を地道に積み重ねたことが、実を結んだんですね。

大前:設立から13年目を迎え、今では住民の方のご理解のおかげで、できることの幅がかなり広がりました。本当にありがたい限りです。この施設はものづくりの環境を整えることで「産業を活性化」することを目的として作られた施設でもあります。産業活性化と聞くと規模が大きくてイメージしにくいですが、第一歩として、地域住民の方をはじめとした周囲を巻き込むことが必要不可欠なんです。

私が日頃感じているのは、産業活性化と地域活性化が切っても切り離せない関係にあるということです。1つの会社だけではできないことが、世田谷ものづくり学校の入居事業者社同士の知恵を出し合うことでできるようになる。世田谷ものづくり学校の中だけではできないことが、地域との交流によってできるようになる。

こうして、人と人のつながりが“ものづくりのうねり”のようなものを作り、それが次第に大きくなっていくことによって、最終目標である産業活性化につながると考えています。

商店会とタッグを組んだイベントを開催。地域交流の輪は広がる

seminar2▲教室を開放してワークショップが開催されている様子。学校という場を用いていることは、大人に好評なのだそう。そこには、「年齢」の垣根は存在しない。

―“ものづくりのうねり”ですか。確かに、地域や産業全体を巻き込んだものづくりには、ひとつの作り手が持つ力や可能性を超えたものを秘めていそうですね。地域との交流で、具体的にどんなことをやっているのか、聞かせていただけますか。

大前:ここのすぐ近くに、「三宿四二〇商店会」という商店会があるんですが、その商店会と交流を深めることで「地域コミュニティ」を形成していこうという取り組みをしています。実はこの商店会の会長は、世田谷ものづくり学校で働いていたスタッフなんです。自分でハンカチ屋さんをオープンし、さらにこの地域の活性化をしていこうと、商店会を立ち上げ会長をやっているアクティブな方で(笑)。

そこの商店会の人たちとタッグを組んで、「三宿蚤の市」というイベントをやっています。ちょっとした理由で眠っている訳あり品、サンプル品、あるいは身の回りで使っていたけど使わなくなった私物、廃材などに手を加えたアップサイクル品などが集まり、にぎわいを見せています。

あと、一番来場者数が多いイベントは、美味しいパンを紹介したり、パンにまつわるさまざまな情報、文化を発信していく「世田谷パン祭り」。去年だと2日間で2万5千人もの人が訪れました。パンを買うために、世田谷区にとどまらず全国各地から人が集まるようになって、そのあまりの盛況ぶりに私たち自身も驚いています(笑)。

img_6484▲廊下の一角にはガチャガチャが。このように、子供が来て楽しめる細やかな工夫も随所に見られる。

―2万5千人!ものすごい規模の大きさですね(笑)。

大前:当然、世田谷ものづくり学校だけでは到底収まらないので、隣接する小学校のグラウンドや体育館、向かいにある世田谷公園などを借りて行う一大イベントになりました。こうした地域の取り組みは、僕らだけが主導するのではなく、商店会の人たちが動いたときに僕らが協力できるような形にもなっています。理想としては、今後もっと世田谷区全体と連携していろんなことをやっていけたらなと思っています。

「仕事」「学び」「遊び」の3要素が融合した場として。世田谷ものづくり学校の挑戦は続く

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―最後に、世田谷ものづくり学校は今後どのような施設を目指していくのか教えてください。

「仕事」「学び」「遊び」の3つの要素が融合しているような場所にしていきたいと思っています。ワークショップやイベントを開催する際にも、「遊びなから学ぶ」とか、「学びを遊びに変える」とか、それをさらに「仕事にする」といったことを意識したり。それぞれが独立しているのではなく、ぐちゃぐちゃに混ざっているからこそ実現できるような、僕らの予期せぬ面白いことが起こる環境になっていければいいですね。

さまざまな要素が入り混じっていると、オフィスで働く人、ものづくりに興味がある方、地域の方など、異なる立場の人が一緒になって交流することができます。そうした環境を育てていくことによって、この世田谷の地からものづくりの可能性を広げていけたらいいなと思っています。

【編集後記】“世田谷”の地から生まれるものづくりのうねり

img_6556▲下駄箱を活用したレターボックス。「学校」という施設の良さを上手く活かしている。

「世田谷ものづくり学校」という“場”を通じて、さまざまな立場の人が交流する。そして、そこで生まれた交流が、大きなうねりとなって「新たなものづくり」を創造していく…。

今回の取材で、この施設は今後さらに成長していき、地域の活性化、ひいてはものづくり産業そのものの活性化に寄与していくのではないかという可能性を強く感じました。

ここ“世田谷”の地から生まれるものづくりのうねり。
私たちの想像し得ない、新しいものづくりの世界を実現してくれることを楽しみにしましょう。

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IID 世田谷ものづくり学校
〒154-0001
東京都世田谷区池尻 2-4-5
03-5481-9011

一般開館時間
11:00~19:00 (月曜日休館)

Web:http://setagaya-school.net/

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