ものづくりの手間を愛着に。「KUMIKI WASEDA」が広げるものづくりの輪

ものづくりの手間を愛着に。「KUMIKI WASEDA」が広げるものづくりの輪


地下鉄早稲田駅より徒歩1分。細い道を入ったところに、「KUMIKI WASEDA(クミキ ワセダ)」はあります。

築40年以上にもなる小さな教科書の製本工場跡をリノベーションしたこの場所は現在、木の香りに包まれた心地良いものづくりスペースとなっています。温かみのあるフローリングの床や、漆喰の壁は全て、「KUMIKI WASEDA」のワークショップに参加される生徒さんたちと共に作り上げたものだそうです。

こちらでは毎週、様々なワークショップやイベントが開かれており、自由に思い思いのものをつくることができる場所になっています。

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このスペースを運営する「KUMIKI PROJECT」は、「暮らしを手づくりする人を増やし、日本の森をつなげたい」という目的で発足しました。

その「KUMIKI PROJECT」を主催されている株式会社 紬(つむぎ)の代表桑原憂貴(くわばら ゆうき)さんにお話を伺いました。
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プロフィール:桑原憂貴
東日本大震災以降、奇跡の一本松で知られる岩手県陸前高田市で起業。地元の木材を活かした住宅キットの開発「KUMIKI PROJECT」をスタートさせる。活動初期は、キットを用いて、地域の集会所を地元住民とセルフビルドで再建。この体験で感じた「つくる楽しさとつながる喜び」を全ての人に届けたいとの想いが強くなり、暮らしのDIYがっこう「KUMIKI WASEDA」を東京・早稲田にオープン。国産材を素材に「暮らしをつくる人をふやすこと」に取り組んでいる。

 

-「暮らしを手作りする人を増やし、日本の森をつなげたい」という目標を掲げられたきっかけは何だったのでしょうか。

桑原:東日本大震災時に、ブロックのように組み合わせることで家具や家が完成できるようにつくられている“つみきブロック”を使い、大きな被害を受けた岩手県陸前高田市内と宮城県石巻市内に集会所を作りました。

震災直後の当時は、「子どもたちに瓦礫のまちを故郷だと思って欲しくない」と、どんなに理想のまちづくりを語りあっても、自分自身の住宅再建もままならない現実に多くの住人たちが直面し、疲弊していく日々でした。そんな中で1つでも自分たちで形にできるものをつくれたらと思い、みんなで力を合わせて取り組んだのが、ブロックを使った集会所のセルフビルドだったのです。

大工道具を持ってお父さんや、割烹着を着て差し入れに来るお母さん、そして手伝う子どもたち。まちの未来を語りあう自分たちの拠点を、力を合わせて手作りした体験が、「暮らしを手作りする人を増やしたい」、「つくる楽しさやつながる喜びを感じたい」という想いに育っていきました。木材というのは、誰でも加工することのできる最も扱いやすい素材だと思います。日本の森の木々を活かしながら、ともに暮らしを手で作ることを体験できる場所を増やしていきたいと思っています。

 

-「つみ木ブロックで建物を作る」というのは、非常に実現が難しいことであるように思いますが、作れるものなのですね…!

桑原:そうですね。当初は「できない」という声もあがりましたが、最終的に完成できました。手間がかかっただけに、「この部分は自分が作ったんだ」と愛着を持てる場所になったと思います。

 

-この「KUMIKI WASEDA」ではどのようなワークショップが開かれているのでしょうか。

桑原:こちらでは作り方についての教室のほか、空間をつくるためのワークショップも開かれています。木材を使って何か作ることのできる人と、使用する木材を生み出す森とを繋げたり、ものづくりを通じたコミュニティ作りを、地域の復興につなげていくことを目指しています。

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確かに、「消費」が主な機能である都市部で、ものづくりを通じたコミュニティが広がっていくのは大切なことですね。「KUMIKI WASEDA」を利用される方はどのような方が多いですか。

桑原:1番多いのは30代の女性、特に主婦の方が多いですね。ちょっとした時間に部屋を自分で作りたい、と考える方が多いです。こちらでものづくりの方法を学んだ方が、別の場所のワークショップの講師になることで、さらにものづくりの輪が広がっていくことを目指しています。

 

-室内の木の匂いが印象的ですが、何の木材を使用していらっしゃるのでしょうか。

桑原:木材は、岩手県陸前高田市一帯の気仙杉(けせんすぎ)を仕入れて使っています。

 

-様々な木材があるなかで、気仙杉を選ぶにいたった理由をお聞かせください。

桑原:震災によって被害を受けた地域の木材を有効活用したい、という思いからですね。また、杉は傷がつきやすい反面、柔らかく加工しやすいという特徴があります。そのため、初めて木材を使って何かを作る、という方にとってのファーストステップとして良い素材でだと思いました。

 

-生徒さんたちと協力しリノベーションされたということですが、その理由は何でしょうか。

桑原:最初、この建物は空き家の状態が続いていた教科書の製本工場でした。最初から綺麗な場所を選ぶよりも、少しずつ手を加えて変化させる過程が大事だと思っています。

リノベーションを進めて発生した課題自体も、一緒に考えて解決するために「空間をつくるワークショップ」として生徒さんたちと取り組むようにしています。

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-道具はどのようなものがあるのですか?

桑原:穴を開ける、打つ、切るなど、木工に必要となる基本的な道具が揃えられています。

機械は特別なものを用意しているわけではなくて、電気で動くものは家庭用の電源でも使用できるものが中心です。日常生活の延長としてものづくりに取り組んでもらうことが目的なので。

 

-あくまでも特別なものを使わず、自分で手作りできることを大切にされているのですね。

桑原:そうですね。もっと気軽に大きなものをつくれるように現在、2種類のDIY用木材キットを開発中です。家をプラモデルのように自分で組立てられる「KUMIKI HOUSE」と、棚や机をつくることのできる「KUMIKI LIVING」というものです。

木材を切ったり、工具をつかったりして棚まで作れる人はまだまだ多くないですよね。そんな人にも自分の空間を自分の手で好きなようにデザインできるようになって欲しいと思うんです。

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-最後に、今後「KUMIKI WASEDA」をどういった場所にしていきたいか教えてください。

桑原:ものづくりを始めたいけど、道具や場所、材料がなくてできないという人のために協力ができる場所です。また、今後は拠点の数を増やしていき、図書館のように1つの街に1つずつあるような場所を目指していきたいですね。



■編集後記

「杉の学名をご存知ですか?」とインタビューの最後に仰った桑原さん。お話によれば、杉の学名は「Cryptomeria japonica」(クリプトメリア ジャポニカ)、日本語訳では「隠された日本の財産」という意味になるそうです。「隠された日本の財産」であり、日本にしか無い杉の木材でものづくりを通して人と自然をつなげていこうとする姿勢が非常に印象的でした。

外観も、今後は木の窓枠に変えることを検討されているとのことです。少しずつ手づくりで出来上がっていく、ものづくりを志す人のための工房「KUMIKI WASEDA」から今後も目が離せません。

 

KUMIKI PROJECT ホームぺージ:http://kumiki.in/

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