「とにかく自分でできることから始めていく」チャレナジー清水敦史氏が挑む、台風を活用した再生可能エネルギー。

「とにかく自分でできることから始めていく」チャレナジー清水敦史氏が挑む、台風を活用した再生可能エネルギー。


「とにかく自分でできることから始めていく」チャレナジー清水敦史氏が挑む、台風を活用した再生可能エネルギー。

日本が見舞われる災害の代表格である、「台風」。

もし、この台風のエネルギーを利用して発電できたとしたら……?

そんな“台風が持つエネルギー”に着目し、新たな再生可能エネルギーを生み出すための挑戦を続けている株式会社チャレナジーの代表取締役CEO、清水敦史氏にお話を伺いました。

 

原発事故が発生して以来、次の世代に何かを残さなければいけないという使命感を持った。

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– 日本初の発電機の開発に至った経緯についてお伺いします。台風のエネルギーを発電に活用するというのは、どういったところからインスピレーションを得たのでしょうか。

清水:きっかけは原発事故です。これからは再生可能エネルギーの時代にしなくてはならないと思い、調べていくうちに風力発電に注目するに至りました。

数ある再生可能エネルギーの中で風力発電に注目した理由は、例えば太陽光発電に関しては自分だけの力で作れないけれど、風車であれば自分のエンジニアとしての知識や技術を活かすことができると思ったためです。また、調べていくうちに日本で風力発電機の普及が進まない理由のひとつに、台風や突風などの強風で壊れてしまうことがあると分かったので、強風でも壊れない風車を作ろうと思い立ちました。

 

-従来の風車には「壊れやすい」という課題があるため、広く普及ができなかったのですね。

清水:既存の風力発電機にはプロペラ状の羽根が用いられているのですが、壊れにくくするためには、「プロペラ」に代わる方法が必要だと考えました。そこで着目したのが「マグナス力」です。マグナス力とは、風の中でボールや円筒を回転させた時、風に対して横向きに発生する力です。

プロペラだと強風によって壊れてしまうという問題がありますが、マグナス力を利用することで、強風でも壊れることなく発電できると考えました。

また、既存の風力発電機はプロペラの向きを風の向きに合わせる必要がありますが、垂直軸型の風車であれば、風の向きに左右されません。

 

資料提供:株式会社チャレナジー

資料提供:株式会社チャレナジー

 

清水:台風から電気をつくりだすには、強い風速や、多方向からの風に対応しなければいけません。マグナス力式と垂直軸を組み合わせれば、どんな風速でも、そしてどんな風向でも影響を受けずに発電でき、台風でも壊れにくくなるのではないかと考えたのです。

 

資料提供:株式会社チャレナジー

資料提供:株式会社チャレナジー


– 垂直軸のマグナス式風車を当時、どの企業も作っていなかったのはなぜでしょうか。

清水:それは、垂直軸のマグナス式風車は簡単に回らないためです。マグナス力の向きは風の向きと円筒の回転方向で決まります。円筒を時計回りに回した場合、風上側の円筒にはたらくマグナス力は、風車を時計回りに回そうとします。一方で風下側の円筒にはたらくマグナス力は、風車を反時計回りに回そうとする。

結果的に綱引きのようになってしまい、風車は回りません。この課題を解決しようと特許を出願していた企業がいくつかあったものの、実用化されていませんでした。

 

プロトタイプの完成、テックプラングランプリでの優勝、パートナーとの出会い、支援……運命的なタイミングに恵まれた。

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– 大手企業も実用化できなかったアイデアを、清水社長はどのように形にしたのでしょうか。

清水:当時、僕は円筒を2本一組にすれば回るのではないか、と考えました。このアイデアのポイントは、2本の円筒を逆の向きに回すことです。こうすれば、それぞれの円筒が風上と風下で交互に働くことで、風車を同じ方向に回し続けることができます。

それで、まず自宅でプロトタイプを作ってみたんですよ。

 

– ご自宅で作ったのですか?

清水:はい。ゴールデンウィーク中にホームセンターで材料を買い集めて、自宅で作りました。試行錯誤の結果、ゴールデンウィーク最終日の夜になんとか形になり、扇風機の風で回った瞬間は本当に嬉しかったです。

 

– そのプロトタイプを作られてからの経緯は、どのようなものだったのでしょうか。

清水:翌年、特許が取れたことで、会社を辞める決断をしました。風力発電の歴史を塗り替えられるかもしれないアイデアを自分は持っているのだから、人生をかけてみよう、絶対にものにしてやろうと思いましたね。

その後、ものづくりのビジネスプランコンテスト、テックプラングランプリを知り、応募したところ、アイデアの可能性と情熱を評価していただいて、最優秀賞に選ばれました。

 

– 最優秀賞!素晴らしい躍進ですね。その反響はいかがでしたか?

清水:そこで審査員を務められていたのが、浜野製作所の社長である浜野慶一氏でした。審査会後、「ものづくりベンチャーの支援施設、Garage Sumidaで一緒に夢を実現しないか」とお誘いしていただきました。

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– まさに運命的な出会いを果たしたのですね。

清水:はい。ものづくりについて、作り手目線でアドバイスをいただいて作り上げています。僕らが持っていない知識や経験を補完してくれる、師匠のような存在です。

 

– 特許が取れ、グランプリで最優秀賞に選ばれるなど、かなり良い流れだったように思えます。

清水:2014年の10月に会社を作りました。その後、ほぼ同じタイミングでNEDOのスタートアップイノベーターという、起業支援を受けられることになりました。本当に運命的なタイミングに恵まれていたんですよ。この勢いのまま、どんどんいけると考えていたのですが、思ってもいなかったことが起きてしまいました。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構):エネルギー問題の解決に向け1980年に設立された国立研究開発法人。現在はエネルギー・環境問題に加え、産業技術力の強化をミッションとして活動している。

 

衝撃のシミュレーション結果。背水の陣でも挑んでいった意地とは。

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– 一体どのようなことが起きたのでしょうか。

清水:年末にコンピューターでシミュレーションをしたところ、エネルギー変換効率が1%以下という、信じられないくらい悪い数値が出たのです。会社設立3カ月で、年を越せないのではないかというくらいの危機を迎えたわけです……まさに、天国から地獄でしたね。

 

– そんな状況を、どのように打破していったのでしょうか。

清水:そこから半年後のNEDOの審査会まで粘りに粘るしかない、できる限りのことをしようと。どれだけ効率が上がるかをひたすら実験し続けました。その甲斐もあって1%以下だったエネルギー変換効率を、30%くらいまで上げることができました。

 

– ある意味背水の陣という状況に置かれた時、エンジニアとしての意地はあったのでしょうか。

清水:そうですね。効率が悪い原因はいくつか特定できたので、対策すれば必ず乗り越えられると思っていました。原因の一つ一つに対してひたすら試行錯誤を重ねた結果、最終的に画期的なアイデアを発見することができました。エジソンは「1%のアイデアと99%の努力」と言っていますが、僕らは「99%の努力が1%のひらめきを生んだ」と思っています。

 

– 思うようにいかなかった時、「辞める」という選択肢はなかったのでしょうか。

清水:「諦めずに続けた結果、できました」というところですが、正直に言えば、「ここまでやってきて簡単に諦めてたまるか」という思いもありましたね。会社を辞めて、様々な方の支援を受けて、ここまでやってきながら、簡単に「諦めます」とは言えませんでした。

何よりも、自分が納得できるまでやり遂げたかったということが大きいですね。原発に代わる再生可能エネルギーの道を作らなければいけないという使命感もありました。

 

小さな一歩を繰り返したからこそ、大きな一歩に繋がった。まずは踏み出すことが大切。

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– 大きな決断や発見を経て、現在はどのような開発段階に至っているのでしょうか。

清水:今年の夏、沖縄で、本物の台風下での発電実験を行う予定です。東京オリンピックのある2020年には実用化したいですね。

 

– オリンピックの開催地が東京に決まった時、原発を不安視する声もありましたね。

清水:オリンピックイヤーには、改めて日本の文化だけでなく、原発事故の終息に向けた取り組みや、原発に替わる新エネルギーへの取り組みについても世界中から注目されるのではないかと思います。僕たちは原発の恩恵を受けてきた世代です。だからこそ、次の世代に再生可能エネルギーの道筋を示し、世界を変えていかなければならないと考えています。

 

– 社会にコミットする、世界を変える可能性があると実感しているのでしょうか。

清水:やはりそれは思います。一人のエンジニアとして、エジソンのように、「テクノロジーが世界を変える」と信じています。世界を変えられる可能性があるとしたら、それは人生を賭けて取り組む価値があります。

また、SF作家のジュール・ベルヌが残した、「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉も信じています。
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– 最後に、アイデアはあっても実現化できていない方へのアドバイスをお願いします。

清水:とにかく、細かく試していくことですね。僕自身も、自分の手でできるところから試していきました。細かい一歩を積み重ねていけば、大きな前進に繋がります。

 

– 清水社長の諦めずに挑戦していく姿勢やアドバイスには大変勇気付けられました。本日はありがとうございました!



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原発事故を受け、「新たな再生可能エネルギーのために、やらなければならない」という使命感を持ったと話す清水社長。最初から完璧に作ろうとするのではなく、小さな一歩を踏み出そうとしたからこそ、垂直軸型マグナス風力発電機の開発をここまで進めてくることができたのです。

エンジニアとしての原点でもあるエジソンの言葉通り、「テクノロジーで世界を変える」という目標に近づいているのが印象的でした。

 

株式会社チャレナジー:http://www.challenergy.com/

 

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