「くずしは個性」。artless craft tea & coffeeが持つ、“茶室”を昇華させた空間美に迫る

「くずしは個性」。artless craft tea & coffeeが持つ、“茶室”を昇華させた空間美に迫る


2016年5月、独特な空間美を放つコーヒースタンドが原宿にオープンしました。

「artless craft tea & coffee」

日本伝統の“茶の文化”を活かしつつも、現代様式との融合によってそれを独自の個性的空間へと昇華させているのです。一体どのようなコンセプトを持って誕生したのでしょうか。今回は、ブランディングエージェンシー「artless Inc.」の代表、そしてアーティストという複数の顔を持ち、同店を作った当人でもある川上シュン氏を取材しました。

来客者の半数は外国人。川上氏の独自の美意識を表現した空間が原宿に

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―コーヒーを淹れていただきありがとうございます。苦みが少なくてとても飲みやすいです。

川上:このお店では、コーヒーが持つ爽やかさやフルーティーさを味わっていただけるようなものをセレクトしてお出ししています。僕らは「artless Inc.」というブランディングエージェンシーをやっていて、この店舗のバックヤードを会社のセカンドオフィスとして使っているんです。個人的な趣味でコーヒーとお茶がすごく好きなので、プライベートでしていることを何か表現できないかということで始めてみました。

原宿という土地柄もあり、いらっしゃるお客さんの半数は外国人。外国人観光客の方がいらっしゃると、「Japan!」といった感じで喜んでくださることが多いです(笑)。日本らしさのようなものを感じてくださっているのだと思います。

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―確かに、コーヒースタンドでありながら、“和”を感じさせる雰囲気が漂っていますね。このお店にはどのようなこだわりがあるのでしょうか。

川上:コンセプトは「茶室」です。

必要最低限のもので表現する「茶室」の美。そして、ハンドクラフトの道具を選ぶ“クラフト”へのこだわり

img_2935▲カウンターに設けられた「炉」。和をアイコニックに表現し、静謐な雰囲気を空間に与えている。

―「茶室」ですか。具体的には、どのようなところにコンセプトが現れているのでしょうか。

川上:茶室には“必要最低限のもので創作する美”という概念が根底にあります。空間をデザインするにあたって、この概念を反映させているんです。実はこの空間には、木と鉄という2つのマテリアルしか使っていません。棚や壁面には、マツなどの樹を薄くスライスして貼り合わせパネル状にした合板、カウンターには幅5メートルの鉄の一枚板。使用する素材の種類を少なくすることで、シンプルな美しさを、カウンターに炉をきり、茶釜を入れることによって、“侘び寂び(わびさび)”を表現しようとしています。

道具へのこだわりも茶室文化の影響で、すべて自分で選んでいます。茶筒は「京都 開花堂」、茶こしは「金網つじ」、花器は三代目小川長樂の長男・小川裕嗣と、こだわって伝統工芸品を多く使用しています。実は、先ほどお出ししたコーヒーにもちょっとしたこだわりがあって、カップにはレザーのスリーブを巻いているんですよ。

img_2833▲カップに巻かれたレザーのスリーブ。来客者をもてなすための工夫は細部に渡る。これも茶の文化を反映させていると言えよう。

―どうりで手触りがいいなと思いました(笑)。「artless craft tea & coffee」は、“クラフト”という言葉にフォーカスしていると聞いています。道具に対するこうしたこだわりが“クラフト”を体現した部分だったのですね。

川上:そうです。世の中何でもデジタルの時代の中で、時代に逆行したものを作りたかった。だから1つひとつの道具も、ハンドクラフトのものを多く使うようにしていますし、コーヒーやお茶もすべてハンドドリップ。大量生産されないものを作りたかったんです。

クラフトという言葉はいろいろな捉え方ができますが、僕は、“手で作られたもの”だと考えています。道具は使うものだし、お客様はコーヒーやお茶を淹れるところを見ているもの。それだったら、道具は手作りのものを使いたいし、コーヒーやお茶も1杯1杯手で淹れたい。1つひとつのこうしたこだわりによって、お客様に喜んでいただいたり、空間としても洗練されたものになっていくのではないかと思っています。

「くずしは個性」。本質を大切にしながらも、独自の魅力を生み出す

img_2846▲背後を飾るのは、アーティストとしての顔も持つ川上氏自身の作品。アート作品にも、日本的美意識が表れている。

―失礼な言い方になってしまったら申し訳ありません。お茶を趣味でやっていると冒頭でおっしゃっていましたが、川上さんが表現されている「茶室」の世界観は、一般的なそれを反映させながらも、どこか違った雰囲気を持っている気がします。どのように独自性を形成していったのでしょうか。

川上:それはおっしゃる通りだと思います(笑)。僕は京都でお仕事をする機会が結構あるのですが、普段はその際にお茶の先生のところで勉強させてもらっています。先生にあたる人はたくさんいるのですが、正式な師匠と呼べる人はいません。いないというか、作らないようにしているというのが正しい言い方かもしれません。

本質を大切にしながらも、そこから独自の魅力が出せるようになりたい。僕はよく「くずしは個性」と言っているのですが、本流からあえて“くずす”ことによって生まれる面白さを表現したいと思っています。正式な師匠を持ってしまうと、くずすことが難しくなる。我流と本流の微妙なバランスによって、僕の“くずした世界観”が成り立っているんじゃないですかね(笑)。

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―意識的に“くずし”という作業を行っているというわけですね。“くずし”をするときに気をつけていることがあったら教えていただきたいです。

川上:僕がやっているくずしに対して「なんか変だね、これ」と思われてしまうか、「これはこれでアリなんじゃないか」と思っていただけるか。そこが重要なんだと思います。後者であればいいんです。だから僕は、本質をしっかり捉えられるように勉強しています。扱う道具ひとつとってもそう。お茶の先生がいらっしゃると、「この茶釜いいですね。誰が作ったんですか。」と気づいてくださるんです。

やはり見る人はよく見ているんですよね。そういう意味でも道具は大事なんです。その道を究める人達に失礼のないよう、本質を捉える勉強を続け、そこから自分の独自性を見出していければいいと思っています。

“空間のポートフォリオ”としての店づくり。「artless craft tea & coffee」が目指す先は

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―最後に、このお店の今後の目標を教えていただけますでしょうか。

川上:もちろん「artless craft tea & coffee」というブランドが、ブルーボトルコーヒーのように広まっていったらいいなという思いはあります。しかしあくまで、ここは1つの空間のポートフォリオ。道具に対してのこだわりを持っている分、採算性を考えるとかなり大変です。それよりは、店が持つ雰囲気や世界観に共感していただき、「こういう空間を作ってみたい!」と言われるようなお店作りをしていきたいです。

【編集後記】本流への理解があるからこそ成り立つ、“くずし”による空間美

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「artless craft tea & coffee」が放つ独特な空間美の秘密は、伝統の“くずし”、そして“クラフト”のこだわりにありました。

“くずし”という言葉を聞くと、本流から外れたイメージを持ってしまう方もいるかもしれません。しかし、伺ったお話や1つひとつの道具へのこだわりなどから、“茶の文化”に対する川上氏の“尊敬の念”を強く感じました。本流への理解を深めるからこそ、独特なだけでなく魅力的な空間を創造することができているのではないでしょうか。

手作り=“クラフト”にこだわる姿勢も見逃してはいけません。
空間を構成するマテリアルをそぎ落としたことによって、洗練された1つ1つの道具がさらに際立ち、空間としての美しさや緊張感を創造しているのです。

コーヒーやお茶が好きな方はもちろん、同店が持つ空間の世界観に触れてみたい方は、ぜひ一度足を運んでみてください。

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artless craft tea & coffee
営業時間:11:00-20:00(水曜のみ12:00-19:00)
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-21-16 1F
TEL:050-5532-7006
定休日:毎週火曜日

川上シュン
artless Inc.代表。
企業やブランドのロゴ・アイデンティティ、広告・キャンペーンなどの総合ビジュアル戦略から、建築やインテリア、空間演出まで、活動領域は多岐に渡る。デザイン手法のみにとらわれないアート的アプローチを組み合わせた独自の表現を確立。権威あるアワードの受賞も多く、国内外問わず評価が高い。

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