男性社会のイメージが強いものづくりの世界。そこで活躍されている女性にスポットを当ててお話を伺う「美女便覧」の連載第2回目です。
今回お話を伺ったのが、岡本友紀 (オカモト ユキ) さん。広島のアトリエを拠点に照明などのインテリアから大型のオブジェまで様々な作品を手掛け、現在では活躍の場を国内外にまで広げている鍛冶職人です。
鍛冶職人とは高温で真っ赤になった鉄を叩いて、作品の形をつくるお仕事です。外からのイメージで言えば、危険で力仕事の多い鍛冶の世界。そこに岡本さんが身をおかれることになったきっかけ、ここまで夢中にさせる理由や作品へのこだわりを伺いました。
―女性で鍛冶のお仕事をされているのは珍しいと思うのですが、どのような経緯で始められたのですか?
もともと、証券会社の営業をしていたのですが、パリの街で出会った鉄製品の美しさに惹かれて、鉄装飾に興味を持ち始めました。ちょうどそんな頃、地元の広島のカフェで出会った鉄製シャンデリアに一目惚れをし、その作品の作者である鍛冶職人に弟子入りすることにしたのです。
―証券会社の営業から一転、鍛冶職人になられたのですね!相当な覚悟が必要だったのではないでしょうか。
あまり自分では「一大決心」というほどではなくて、やりたい!やってみたい!という気持ちひとつでした。亡き師匠に正面から志願して、弟子にしてもらったんです。なんのツテも無かった私を弟子にしてくださって、とても感謝しています。
―現在は鍛冶職人として、どのように活動をされているのですか?
師匠の元で10年間修行して独立しました。そのあとは広島のアトリエを拠点に照明などのインテリアから大型のオブジェまで様々な作品を手掛けています。基本的に活動は1人です。作品はネットで販売したり、展示会などを開催して販売をしています。企業様も個人の方も幅広く注文がきますね。
―お作りになったものをぜひ、見せてください!
こちらのシャンデリアです。
―とても綺麗です……。作り手としては、どの部分にこだわられたのですか?
ラインの繊細さや美しさを意識しています。もともと太い鉄を叩いて、このように細くなるまでラインを叩き出しているのですが、ただ細いだけではなく、叩くことで表現できる、繊細なラインに私のこだわりが出ています。
―叩いてこの形をつくっているのですね……!岡本さんが鍛冶職人としてものづくりをされる上で大切にしているものって何ですか?
力強くて冷たいイメージのある鉄を、繊細で美しく。さらに、軽やかでしなやかさを表現することです。丹念に成形した鉄は、重厚感から解放されて羽根のような軽やかさと植物のようなしなやかさも生み出します。
造形の美しさはもちろん、光によって生まれる幻想的な陰影の美しさにもこだわり、イメージしながら創作することを意識しています。
―素朴な疑問ですが、そんな繊細な作品とは裏腹に、鍛冶職人は高温の鉄をハンマーで叩くのは非常に危険なイメージもありますが、恐怖心などは無いのですか?
危険ですし、怖いです。でも、恐怖心を持ってないと無茶をしてしまいがちになるので、必要なものだと思っています。叩いている時や溶接している時はやっぱり熱いです。冬は古民家なので寒いですし。恐怖心と上手く付き合っています。
―なるほど。恐怖心は持ち続けないと逆に危険ということですね。また、男性が多い業界だと思いますが、女性としてうまくやっていく秘訣など何かありますか?
「作りたいものを作り続けて、それらを明確にする」こと。「人の真似をしない」ことです。
―そのお考えに行きついた経緯ってどのようなものだったのですか?
私が鍛冶職人として作品を作り始めたときに、「繊細さ」を表現する方は少なかったのです。 鉄は力強いものだ、と言われていて繊細さでは売れない。鉄っぽくないと言われていました。
私は自分が作りたいものつくって、好きなものをやって評価されたい、と思って貫いてきました。
自分の好きなことを信じて続けていけてよかったと思います。
―その御言葉に強い意志を感じます…。では、最期に今後お仕事でやりたいことを教えてください。
海外での展示や大きなモニュメントの制作です。チャンスが来たその時に自分がしっかり対応できるように、現在の活動をコツコツと続けて、準備して行きたいと思っています。
―ありがとうございました。一目惚れをしたシャンデリアをきっかけに「やりたい!」という自分の気持ちにまっすぐに行動し、しかもその情熱を持ち続ける芯の強さにはただただ圧倒されるばかりです。
岡本さんの凛とした美しさの裏には、そんなブレない強さが滲み出ているようでした。
岡本友紀さんのホームページはこちら
http://forgerone.com/