Art&Betweens : ものづくり×自然

Art&Betweens : ものづくり×自然


アート専門の通訳・翻訳を行う活動団体「Art Translators Collective」のメンバーによるリレーコラム。さまざまな国や文化をまたいで活動してきた経験を活かし、グローバルな視点からものづくりの面白さをお伝えします。

アリキ・ファンデルクライスは、オランダ在住のアーティスト。植物や雨など自然界の要素を、布や印画紙に転写/定着させる手法で作品やプロダクト制作を行なう独自のスタイルを確立しています。元来「ものづくり」とは、人の手でつくるものですが、そこに自然界の要素を掛け合わせるファンデルクライス。その手法や哲学とは一体どのようなものでしょうか?


ファッションからアートへ。
「Contextile(コンテキスタイル)」の世界観

アリキ・ファンデルクライスは、ArtEZ芸術大学(アーネム、オランダ)でファッション学を学んだ後、サンドバーグ・インスティテュート(Sandberg Institute/美術系大学院大学)で応用美術領域専攻を修了し、ファッションを学んだ後に美術の道を歩み始めました。

ファッションへの興味の根幹には、コレクションの裏でつくりこまれるコンセプトであったり、様々なものごとを生き生きと輝かせるパワーなどに魅せられていたと語るファンデルクライスですが、ファッションとアートの架け橋として最初に選びとった表現方法は「写真」でした。

「外的要素が制作を担うようになっていくにつれ、制作者としてもよりしっくりしていったことを覚えています。」と本人も語るとおり、どのように写すかという写真的解釈よりも、転写する行為そのものに興味を深めていったファンデルクライスは、「文脈(コンテキスト)」と「テキスタイル」を掛け合わせた「Contextile(コンテキスタイル)」という造語をつくりだし、様々な作品を発表してきています。

「天気」を用いた《Weer Blauw (Weathering Blue) 》
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「Contextile(コンテキスタイル)」の一作目として発表された作品は、ゾイデル海博物館(オランダ、エンクハウゼン)とのコミッションワークで制作された《Weer Blauw (Weathering Blue) 》という作品でした。
ファンデルクライスは博物館図書館でリサーチ中に、約100年前に蒸気洗濯(steam laundry)で白い布を洗うときに、真っ青なウルトラマリン顔料が用いられていた事実をみつけます。
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Reckitt社が発表した世界最古の漂白剤「Reckitt Blue(レキット・ブルー)」に着想を得たファンデルクライスは、白い綿の布地をウルトラマリン顔料で染上げ、その濃いブルーの布地を博物館隣の公園で158日間に渡り昼夜問わず干し続け、自然の風雨を受けた布地はやがて薄いブルーへと変化させました。

一連の様子を記録集としてまとめられたと同時に綿の布地からはシャツがつくりだされ、現在もゾイデル海博物館に収蔵されています。

《Colour》シリーズの色彩研究

また、水と重力がつくりだす新しい色彩表現の研究もしています。《Colour》シリーズは、製造業界や印刷業界の人々が色を扱うときに用いる色見本を、絹100%の布地にプリントし、そこに水を作用させて重力のままに降下させることで制作されます。

色見本は、自然界には存在しない人間の文化ゆえの成果物ですが、そこに水という自然界の要素と、重力という地球ならではの力学を作用させた結果、文明社会にも自然界にそのままには存在し得ない、人間と自然の両者があってこその唯一無二の美しさが見出されます。

以下は、本人が深く共感するというクリフォード・スティル(1904〜1980年、アメリカのアーティスト/ジャクソン・ポロックやマーク・ロスコに先駆けて抽象絵画を切り拓いた先駆者と評される)の言葉:

“I never wanted color to be color. I never wanted texture to be texture, or images to become shapes. I wanted them all to fuse together into a living spirit.”—Clyford Still

「色に、色であって欲しいと思ったことは一度も無い。質感に、質感であって欲しいとも、図に形であって欲しいと思ったことも一度も無い。それらすべてが合わさった霊的な生命体になって欲しかった。」クリフォード・スティル

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雨をそのままシルクの布地に留めた、《Made by Rain》シリーズ
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ファンデルクライスの代表作のひとつ、《Made by Rain》はシルク100%の布地に雨を3分間降らせ、時間・場所・雨に特有のパターンを記録したもの。水に反応するコーティングを施した布地を雨に晒すことで、特有のパターンが記録する「pluviography」という手法は、ファンデルクライスが自身で編み出したものです。

来日経験のあるファンデルクライスは、日本でも《Made by Rain》シリーズを制作しましたが、台風時期に経験した雨はオランダのそれとはまったく異なる経験になり、また作品の仕上がりも特有の表現になったと言います。

“I thought that I knew the rain because I studied it in The Netherlands. But it is really different in Japan and I realized that something universal as rain is really different in a different climate.

After experiencing the intensive rainfall in Japan I understand why the old woodprints representative the rain in vertical lines because it really looks like this in real.”

「オランダで雨の研究をしていたので、雨については知っているつもりでしたが、日本の雨は私の知っているものとは全く違った。雨ほどの世界的に普遍性のある現象も、異なる気候では全く異質のものになることに気付かされました。日本の強い雨を経験した後、日本の木版画で雨が縦線で表されることに深く納得しました。本当にそのように見えたので。」

最後に。自然の魅力とは?

—なぜ自然をモチーフにしていますか?

What I realize is that I am very much interested and inspired by nature and that things arise/grow/originate. That things can ‘be’, rather than always need to ‘become’ something.

「自然界のもたらす、生じたり、育ったり、起源となる部分に強く惹かれ興味を抱いています。どう成らねばいけないか、という概念から解放され、どう在るか、という考え方です。」


 

現在、アリキ・ファンデルクライスの展示は下記二箇所で行なわれています。あいにく国内展示は現在予定がありませんが、お近くの地域の方は是非お出掛けください。

■グループ展 「The Future of Fashion Is Now」巡回展
会場: OCT Art Gallery (深圳、中国)
会期: 3/26-7/31/2016

※《Made by Rain》シリーズが出展されています

■グループ展 「Weather or Not
会場: MU (アイントホーフェン、オランダ)
会期: 7/1-9/26/2016

※《Made by Rain》シリーズのなかの、雹(ひょう)が降ったときに制作された作品が出展されています

河西香奈(かわにし・かな)
KANA KAWANISHI ART OFFICE/GALLERY代表。
2006年よりRizzoli New Yorkの東京コーディネーターとして書籍編集に携わり、アーティストマネジメント・編集事務所及び展覧会企画財団を経て、2014年に独立。
現代美術ギャラリー・ディレクターとしての視点を活かしながら、出版物の企画/編集、国内外の美術館・財団・招聘機関等の通訳や翻訳を行なう。

Art Translators Collective(アート・トランスレーターズ・コレクティブ)は、アート専門の通訳・翻訳およびそれに関連する企画の運営などを行う団体。
同時代を生きる当事者として表現者に寄り添い、単なる言葉の変換を超えた対話を実現していく翻訳・通訳を目指し活動している。
http://art-translators.com/

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