誰もが使えるエコな交通手段である自転車。使っている最中は確かに環境に優しいですが、役目を終えた自転車のことを考えると、どうでしょう……?
平成10年のデータによると廃棄自転車の数はなんと年間577万台。
その内訳は「放置自転車」が全体の約18%の104万台、「自転車屋からの廃棄自転車」が約16%の93万台、残りの約66%の380万台が「家庭からの粗大ごみ」として回収されるものだそうです。
そんな廃棄問題を解決する、植物由来の物質でできた「土に還る自転車」が開発されました!
開発された場所は、イタリアのデザインスタジオEurocompositi。
3Dプリンターで植物からできた樹脂を使って自転車フレームを作ることに世界で初めて成功したのです。
画期的!土に還る自転車フレーム
Plant Yourself on EuroCompositi’s Compostable Bike Frame http://t.co/lkwVsSJwjX via @3DPrintIndustry #3dprinting pic.twitter.com/IBGyQQEFQB
— 3D Printing Industry (@3dprintindustry) 2015, 9月 3
「真に機能的かつ効率的なものは美しいはずだ」という信念を掲げているEurocompositiは、2011年にベテラン技術者のマーク・ジェノバによって立ち上げられました。
当時、環境問題を意識して竹や木などの植物から作られる自転車が出てきていましたが、フレーム形成の自由度に制限がありました。例えば竹だと、竹自体の形をフレームのベースにせざるを得ず、空気抵抗などの問題が生じてしまうのです。
マーク・ジェノバはそんなフレームの強度の問題を、植物由来の「PLA樹脂(ポリ乳酸)」を3Dプリンターで形成することで解決しました。
素材としてPLA樹脂が選ばれた理由は、コーンスターチやサトウキビ由来のため「生物分解性」があり、仮にどこかに放置されたとしてもやがて微生物に分解され土に還っていくこと。3Dプリンターのプラスチックを熱で溶かし積み重ねていく「FDM(熱溶解積層法)」と相性が良かったことが決め手でした。
PLA樹脂は他の素材に比べてより少ない電力で溶けて物体を3D印刷できた点は、基本的にソーラー発電で生産設備を動かしているデザインスタジオEurocompositiにとって非常に大きなメリットです。
これによって、フレームの素材が土に還るというだけではなく、生産時の環境的負荷が、極限まで抑えられる仕組みになっています。
研究に試行錯誤の日々
Eurocompositi’s 3D printed PLA bike frame – made from plants – wins Eurobike Gold award http://t.co/KZ8H5V2P0a pic.twitter.com/T7TSUWcnf3 — 3D PrintingTODAY (@3dprintingoz) 2015, 9月 1
そんな中、立ちはだかったのが「強度」の問題。
PLA樹脂は強度があまり高くない素材で知られていますが、自転車のフレームは激しい動きに耐え、乗り手の体重を支えなくてはなりません。
強度が高くない素材でも自転車フレームに必要な強度を達成できたのは、フレーム自体の構造を工夫したためです。蜂の巣のような六角形の内部構造を持ったフレームを細かいパーツに分け、複雑に組み合わせることで一定の強度を得ることに成功したのです。
技術の応用に称賛の声!
こちらのエコ自転車は、ドイツで開催された”Eurobike”ショーでデザインと環境的配慮の精神が審査員たちの目にとまり、金賞を受賞しました。
当時、マークジェノバはこう語っています。
「僕たちはEurocompositiでの知識と経験があったからこそ、合成物質の中でも難しいPLA樹脂に適切なチューブ構造と寸法を割り当て、一定の強度と耐久性を持たせることに成功した」。
審査員からもこんなコメントが。
「土に還るエコ自転車から新しいトレンドが生まれていくだろう。この自転車は生物分解性があり、リサイクル可能かつリサイクル素材で3Dプリンタを用いて作られた最初のマウンテンバイクだ。われわれが最も評価したのはその先見性である。使用されている技術は自転車というもののカスタマイズ方、生産方法に革命をもたらす可能性があるからだ。
エコ自転車が普及したら・・・
Eurocompositi 3D printed PLA bike frame – made from plants – wins Eurobike … – http://t.co/wyKgrH7zEf #3dprinting pic.twitter.com/EAnAzaRGFu
— B3dge (@Build3dprinter) 2015, 9月 1
植物由来の素材でできているエコ自転車は、そのフレームの生物分解性もさることながらその生産技術の応用可能性にこそ真の価値があるようです。
例えば、想像してみてください。環境的負荷が少ない自転車を誰でも自分で作ることができたら。その都度必要に応じて新しいフレームパーツを3Dプリントし、自転車の形状を変化させたりできるでしょう。
環境にも良く、遊び心もある。この先が本当に楽しみな技術です。