デザインが紙に新たな命を与える。福永紙工が生み出す立体プロダクトの秘密に迫る

デザインが紙に新たな命を与える。福永紙工が生み出す立体プロダクトの秘密に迫る


かつては、「読む」「書く」という行為の中心にあった“紙”。
時代の変遷とともに、次第にその中心は電子の世界へと移り、紙はその存在価値が危ぶまれるようになりました。

しかしそんな厳しい環境下で、デザインの力で紙に命を与え、紙の新たな可能性を追求する会社があります。
その会社の名は、福永紙工株式会社。建築家やデザイナーとコラボして彼らが生み出すプロダクトは、従来の“紙”のイメージを覆す画期的なデザインのものばかりです。その中でも特に話題を呼んでいる代表的なプロダクトが、平面の紙を広げて立体の器を生み出す「空気の器」です。

この「空気の器」はどのようにして考案されたのでしょうか。また、そこには開発者のどのような思いが込められているのでしょうか。2006年に「かみの工作所プロジェクト」を立ち上げ、デザイナーと共働して数々の魅力的なプロダクトを生み出している、福永紙工株式会社・代表取締役の山田明良氏にお話を伺いました。

既存技術とデザイナーのインスピレーションが出会い、空気の器が生まれた

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‐御社の代表作「空気の器」が誕生した経緯について伺いたいと思います。この器は、デザインベースで生まれたものなのか、それとも、もともとあった技術を活かすためにデザインされて生まれたものなのか、どちらなのでしょうか。

山田:完全に前者です。何人かのデザイナーさんにオファーして、大雑把なテーマを決めてそれを投げたのが始まりでした。デザイナーさんには前もって工場に来てもらい、この機械にはこういう機能があるだとか、こういうスペックがあるといったことを説明し、“工場でできること”という観点も入れて考えてもらいました。紙関係のデザインというと、グラフィックデザイナーになるのですが、建築家やプロダクトデザイナー、そしてアーティストの方など、いろんなデザインに関わる人たちに集まってもらったんです。

‐面白そうですね。そもそも、なぜデザイナーにアイディアを頼もうと思ったのですか。

山田:会社は創業53年、主に紙のパッケージを作っています。以前は完全な受注型で、頼まれたものをきちっと作ってきちっと納品していれば会社は成り立っていたのですが、バブルが崩壊したあたりからそうもいかなくなってしまいました。業界全体として印刷業が厳しくなってきたこともあり、何か手を打たないといけない。そのとき思いついたのが、以前から問題に感じていた、印刷屋とデザイナーの間の溝を埋めるということだったんです。刺激的なデザインを実現し得る技術が工場にある。結果的に会社をアピールするのが目的でした。

‐その中で「空気の器」が生まれたんですね。どういう基準で採用するものを選んだのですか。

山田:当時、デザイナーさんと共有していたテーマは“色”でした。空気の器を考えたトラフ建築設計事務所さんには、“緑色”をテーマとして考えてもらったのですが、彼らが作ってきたのは、片面がそれぞれ黄色と青色のものだったんです。

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‐テーマは“緑色”ですよね?それってアリなのでしょうか(笑)

山田:私も最初は、「あれ、緑色でお願いしたはずなんだけどな」と思いました(笑)でも実は、この黄色と青色は補色の関係になっていて、立体にしてななめか見ると、ある一瞬のタイミングで色が混ざって緑色になるように作られていたんです。

黄色

山田:これは印刷屋にはない発想で、非常に驚かされました。これをきっかけに、トラフ建築設計事務所さんに「空気の器」を作っていただくことになったんです。しかし、この細かな切れ込みを入れる技術は、当時の私達の設備にはありませんでした。

‐補色の関係を利用したプロダクトを作るという発想がすごいですね。これだけ繊細なデザインのプロダクトを完成させるには、相当な苦労をされたのではないですか。

山田:大変でした(笑)工場で「空気の器」を作っている様子をこれからお見せします。

「空気の器」が生まれる現場!職人が試行錯誤を繰り返して実現した、絶妙な切り込み加減

アイキャッチ山田代表取締役(左)と、御手洗順也さん(右)

山田:空気の器を作るために重要な切れ込みを入れる作業は、こちらの自動打抜機で行います。ここからは、実作業を担当している御手洗が説明します。

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御手洗:この機械では、上の写真のような工程を経て、空気の器に必要な切れ込みをいれます。まず印刷済みの紙をセットすると、自動的に次のカット工程に送り出されます。

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御手洗:送り出される際は、空気の力で紙を土台に固定します。紙が動いてしまっては、正確に切り込みを入れることができないからです。

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台に固定された紙はコンベアに乗せられ、カットに送り出される。

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機械上部に据え付けられた刃に紙が押しつけられ、切り込みが入り、空気の器ができあがる。このカットこそ、作業上の最大の難所だ。

御手洗:正確に切る作業というのは機械をもってしても、とても難しい工程です。刃の当たる場所や深さがちょっとでもずれたりすると、それだけで上手く立体として広がらなくなってしまいます。ですから、切り込みの圧の微妙な調整が必要になるのです。7~8割は機械で調整できるのですが、本当に微細な調整は人間の手で行わなければなりません。

fukunaga_plateカット部分の機械の上部を引き出すと、写真のプレート(左写真)が現れる。この金属製のプレートのさらに下にある面(右写真)に、御手洗さんの調整技術が投じられる。

御手洗:あまり詳しくはお見せできませんが、刃が均一に紙に当たるよう、ごくわずかに、刃の一部分にゲタを履かせ圧を調整します。厚みやサイズの異なるテープなどを、上の写真のプレート面(上写真右)に貼り調整するんです。

テープ

‐ということは、最終的な切り込みの圧の調整は、職人さんの手作業だということになるのでしょうか。

御手洗:そういうことになりますね。最初は全然上手く切ることができなくて大変でした。機械も、本当に精密な機械というわけではないので、手前側が切れなかったり、後ろ側が切れなかったりするんです。それを均等な圧に調整して切り抜くというのが至難の業ですね。1年もの試行錯誤を繰り返し、ようやく納得できるものが作れるようになりました。

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まさに職人芸と呼ぶべきカットの工程を経て、空気の器ができあがる。

「同じ崖っぷちなら、トライした方が面白い」福永紙工が見せる紙業界の底力

最後

‐工場を見せていただきありがとうございました。「空気の器」は、発売から大きな反響を集めることになりました。発売前と後とで、会社として変化したと感じることはありますか。

山田:メディアなどに取り上げられることによって、現場の社員のモチベーションアップやプライドにはつながったと思います。また、「空気の器」を販売することによって、それが広告塔となり、クリエイティブな案件の問い合わせが増えてきました。

‐デザインの力によって、作り出せるものの幅が広がるのは素晴らしいことですね。これがもっと広がってくれることを楽しみにしています。

山田:中小企業なので、無茶はあまりできないんですけどね(笑)。でも、いろんなことにトライして崖っぷちにいるのと、事業が衰退して崖っぷちにいる。同じ崖っぷちにいるならトライしてる方が楽しいじゃないですか。これからも、皆さんが面白いと思ってくださるようなものを生み出せるように頑張りたいです。

デザインが、“職人の技術力”という価値をアップデートする

今回紹介した福永紙工株式会社は、デザインの力によって、今ある技術を最大限に引き伸ばし、新たな価値を提供することに成功したということがお分かりいただけたでしょうか。デザインは、既存の古いとされているものですらも、新しいものへと変容させてしまう程の、強力なパワーを有しているのです。

福永紙工株式会社の製品はこれからも、さまざまなデザイナー達とコラボすることによって、本来の良さを活かしつつ、また違った表情を私達に見せてくれることでしょう。

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山田明良
1962年愛知県生まれ。アパレル商社を経て、1993年福永紙工入社。2008年同社代表取締役に就任。2006年「かみの工作所プロジェクト」を設立。多くのデザイナーと協働で紙の可能性を追求、開発、製造、販売を手がける。本稿で紹介した「空気の器」は、2012年に「reddot design award best of the best 2012」(ドイツ)、「Design for Asia award 銀賞」(香港)を受賞するなど、世界的にも高い評価を受けている。

【福永紙工、プロダクト関連サイト】
福永紙工
かみの工作所 
TERADA MOKEI 
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1:16 
ネットショップ「かみぐ」
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