2016年5月、ドバイで「3Dプリンターによって作られたオフィスビル」がお披露目されました。床面積はなんと250平方メートル。このスケール感で日本でも話題になりました。同時にこの出来事は、人々に3Dプリンターの圧倒的なポテンシャルを実感させたのです。
しかし、よく考えてみると、”立体のもの”はどのように出力されているのでしょうか。完成物は見ることがあっても、作られる過程を見る機会はそう多くはありません。「普通のプリンターの3Dバージョン?」と、何となくのイメージしか持っていない方が多いのではないでしょうか。
3Dプリンターは層を積み上げて立体物を造形するという基本的な概念こそ共通ですが、用途に応じて様々な造形方式があるのです。今回は、代表的な造形方式をご紹介し、それぞれがどのような用途に対応しているのかを見てみましょう。
最も歴史が古く高精度。紫外線によって樹脂を固める「光造形法」
3Dプリンターの歴史は古く、1970年代後半にはその原型となるものが開発されています。当時から用いられていた造形方式が「光造形法」です。この方式は、紫外線を当てると硬くなる液体性の樹脂を原料に用いて、それを積み上げていくというもの。開発当初は造形物の強度に課題がありましたが、1980年代には工業製品の試作品の製作技術として、用いられるようになりました。3Dプリンター登場以前、試作品を作るには工場などの生産現場を実際に稼働させる必要がありました。こうしたプロセスと比較し、圧倒的に早い時間で立体の試作品を出力できる点が評価されたのです。
現在では、強度の改善がなされたことによって、試作品だけなく、実際の製品を出力するためにも用いられるようになっています。その造形の方法は上の動画の通りですが、以下のルーティンが基本となっています。
1.容器内に液体状の光硬化性樹脂(紫外線を当てると硬くなる)を入れる
2.レーザー光を当てて一層分の樹脂を硬化させる
3.ステージ(動画中にある金網部分)が下降し、次の”硬化すべき層”の元となる液体を露出させる
4.再び液体にレーザー光を当て、次の層を硬化させる
この作業を繰り返しながら、まるで地層を形成するように、造形物を出力していくのです。造形には時間がかかり、ものの大きさや複雑さにもよりますが、数時間~1日以上かかります。上の動画のエンジンブロックを作るためには77時間かかるようです。レーザー光を当てて樹脂を硬化させるこの方法は、発熱しない化学反応であるため、熱膨張による変形が起こらないのが利点。一方で、強度が改善したとはいえ、樹脂は直射日光に当たると劣化してしまったり、強い衝撃を与えると壊れてしまうなど、耐久性は他の造形方式に一歩劣ります。
粉末をレーザー光により焼結。耐久性に優れた造形物を生み出す「粉末焼結法」
ステージ上に敷き詰めたナイロンや金属、セラミックスなどの粉末を、レーザー光を当てて焼き固めていく方式が 「粉末焼結法」です。SLS(Selective Laser Sintering)方式とも呼ばれています。高出力のレーザー光を使って材料を溶かし、焼結させ、ローラーで平らにしながら積層していくというもので、ステージが下がっていくという点では、光造形法に似ています。
滑らかな質感が求められるものを作るのには不向きですが、金属などのさまざまな材料を使うことができるため、耐久性に優れた造形物を作ることができるのが特徴。そのため、高負荷状況下で使われる椅子や家具などのインテリア品を作る際にも用いられることがあります。
紙のプリンター技術を応用。滑らかさを追求できる「インクジェット法」
紙に出力するプリンターの技術を応用させたのが、「インクジェット法」です。プリンターのヘッド部から液体状の光硬化性樹脂を噴出し、紫外線を当てて硬化させながら積層していく方式で、積層ピッチ(積層する高さ)が0.01ミリメートルと、とても薄いです。この積層ピッチが薄ければ薄いほど、滑らかな造形物を作ることができるのです。
造形スピード・強度ともに優れていますが、光硬化性樹脂を用いているため、光造形法と同様に直射日光に当てると劣化してしまうという弱点があります。現状ではプリンターとしては非常に高価で、その価格は数百~数千万円。このため、主にプロユースに用いられています。
樹脂を熱で溶かして積層。個人用として普及が期待される「熱溶解積層法」
個人用の低価格3Dプリンターに多く用いられている方式が、 「熱溶解積層法」です。細い線上の樹脂を熱で溶かしながら積層していきます。線上の樹脂を出すノズルが1つのもの(シングルヘッド)と2つのもの(デュアルヘッド)があり、ヘッドが2つのものは2色で出力することができます。
光造形法と比較すると精度が低く、出力するのに時間がかかるのが課題です。が、数年前まで数十万円していたものが、現在では10万円以下でも手に入るため、個人用の普及機としての役割が期待されています。今後私達の家庭にやってくる3Dプリンターは、この方式のものである可能性が高いです。
平面を積み上げて立体物を作る「3Dプリンター」がものづくりの歴史を変える!
ご覧頂いたように、3Dプリンターの基本は、平面を一層一層積み上げて出力し、立体物を作り上げことにあります。今回紹介した造形方式は、精度や強度、スピードや価格が大きく異なり、その目的に応じて使い分けられているのです。
3Dプリンター登場以前は、立体物の造形には工場のラインを動かしたり、あるいは一つ一つを手作りしなければいけないなど、多くの工数と時間が必要でした。が、3Dプリンターであれば、このプロセスを大きく短縮することができるのです。3Dプリンターのメリットは他にもありますが、この点こそが、「ものづくり革命」と呼ばれるゆえんです。
また、今後は家庭用の機器の普及も期待されており、皆さんがご家庭で、自分のイマジネーションを”形”にできる日もそう遠くはありません。今後も3Dプリンターのものづくり革命から目が離せません。