「義手を腕時計やシューズのような感覚で選べて、個性を表現できるアイテムにしたい」。その想いをカタチにし、ハンデに対して新しい価値を生み出す義手「Handiii」が生まれました。
従来の義手は「非常に高価」で「できるだけ本物の手に似せてつくる」ことが当たり前でしたがなぜ、Handiiiの開発チームは、長い間変わらなかった共通認識を変えることを目指したのでしょうか。
開発者の熱い想いと、ユーザーのことを徹底的に考えた仕組み作りをご紹介します。
40歳のおじさんをヒーローにする義手
数万円で作れるロボット義手 handiii 。筋電センサ信号をスマホで解析して駆動 – Engadget Japanese http://t.co/nRAtngO8K2 pic.twitter.com/GAregcKOIM
— beep_roadrunner_A.K. (@beep_roadrunner) 2015, 3月 27
Handiiiを開発しているのはイクシー株式会社(exiii Inc.)。CEOの近藤玄大氏はインタビューにこう答えています。
「僕は、1人の障害者を助けたいというよりも、社会全体の障害に対する見方を変えたいと昔から思っています。やっぱり、義手とかをしている人を見ると可哀想だと思ってしまうじゃないですか。それを、『かっこいい』に変えたいんです」
実際にハンデを持つ開発パートナーにHandiiiをつけてもらい、デモをしたところ40歳のおじさんがヒーローに変わった。見た人が次々に握手を求めてくるのを目の当たりにして、社会が変わる手ごたえを感じたと言います。 手を失ったことで生じる、日常の困り事を解決するために、必ずしも手指の機能を完全に再現する必要は無い。むしろ、機能を必要最小限に制限し、価格を安くし、そしてスタイリッシュにデザインすることが大切だと考えるようになったのです。
疑似的に本人の意思で動く「筋電義手」を採用
筋電義手handiii 動きがなめらかですばらしい。筋電位を三箇所でとってるんだそうです。#mft2014 pic.twitter.com/iFPrI2vmxP
— Kaoru (@TachibanaKaoru) 2014, 11月 24
Handiiiはただ「かっこいい」だけではなく、機能性も非常に優れています。
残された腕の筋肉の電気信号を検知し、直感的に義手を動かせる技術「筋電義手」を採用。これは、筋肉を動かそうとする時に発生する表面筋電位の量によって動作制御される義手なのです。
筋肉は、脳から命令として発せられる微弱な電気的刺激を認識した神経から分泌されるアセチルコリンを受容体が受け止めることによって収縮されます。
この時に発生する電位は微弱ではあるのですが、体表面でも検知することができ、これを筋電義手を動かすスイッチとして活用します。
操作法は状態によって異なるのですが、切断した部分を動かす筋をスイッチとする場合が多いです。
例えば手首を切断された方の場合、手首を掌側に曲げる時に発生する表面筋電位を「ものを掴む」動作に。手の甲側へ曲げる時に発生する表面筋電位を「ものを離す」という動作に紐付け、義手の動きと表面筋電位の発生方法に一定のルールを設けることで操作を行います。
このように表面筋電位を検知し、その出力が一定の閾値を超えることでスイッチをオン・オフさせて動作するのが筋電義手の仕組みなのです。内蔵されたモーターにより、ものを掴む・離すという動作ができ、擬似的に本人の意思で動く手を再現することができます。
3Dプリンターによって驚異的なコストダウンを実現
今年のメディア芸術祭で優秀賞を受賞した、日本の筋電義手「handiii」。美しすぎるそのフォルムと、画期的なコストダウンに成功したテクノロジーに大注目です! http://t.co/ZZlDNZjwPb pic.twitter.com/CialYUth2u
— ケアステーションジャパン (@CSJ_NEWS) 2015, 2月 12
筋電義手の技術自体は昔から存在していて、現在市販されているものは150万円以上、と非常に高価で普及率は1%程度と言われています。 これに対し、handiiiは現状の試作では材料費を3万円程度に抑えています。なぜ、それができるのか。その驚異的なコストダウンの実現には3つのポイントがありました。
1.筋電をスマホで読み取る
筋電センサーが筋肉から発せられる電気信号を無線で拾う時に、従来だと専門的な解析用コンピューターに送らなくてはいけませんでした。それを誰でも持っているスマートフォンで解析できるようにすることで専用機械を不要にしました。
2.モーター数を減らす
様々な形状に合わせて曲がる関節機構を開発して、1本の指に3つある関節を1つのモーターで動かしてモノを掴むことを可能に。部品の簡素化を実現しました。
3.3Dプリンターによる製造
これまでは製造設備の用意や、製造周りの人件費などがかさんで製品が高くなっていました。それが3Dプリンターの活用によって、試作のたびに特注の金型をつくる必要がなくなり、初期投資も不要。修理・カスタマイズも容易になり、オーダーメイドで作っても単価が変わらなくなりました。
デザインに関しても、本当の手と間違えてしまうほどリアルに再現するのではなく、3Dプリンターを活用して機械だけで出せるようなデザインを追求することでコストを抑えることができたのです。
handiiiでユーザーと共に実現したい夢
【動画公開】 未来の筋電義手「Handiii」開発者 近藤 玄大 『「手がない=障害」とならない世界を目指して』 https://t.co/IqgyTtPW8L #TEDxKids #義手 #makers #handiii pic.twitter.com/Nkfb420XqH
— TEDxKidsChiyoda (@TEDxKidsChiyoda) 2015, 4月 22
開発のユーザーの協力者として2年前に工場の事故で前腕を失った、森川さんがいらっしゃいます。腕を失う前はパラグライダーやサイクリングなどアウトドアの趣味が多かったそうです。森川さんと共にexiiiが叶えたい夢は、「健常者からも羨ましがられる自分らしい腕をつくる。そして、いつかhandiiiをつけてまたパラグライダーで空を飛びたい」というもの。
今後は更なる付加価値として、指先にマイクとイヤホンを入れて、義手を使って電話ができたり、指先にライトをつけたりしてほしいという声もあるようです。
「今まで健常者が絶対にできなかったことが、handiiiではできるようになるんですよ。マイナスをゼロに近づけるためのものだった義手を、プラスの方にまで持って行ける。ちょっとベクトルが違うかもしれないけれど、なんか飛び越えた存在になれるというか」
CCOの小西哲哉氏はこう語りました。義手に新しい価値を創出するhandiiiの今後に目が離せません!
exiii公式サイト
http://exiii.jp/index.html
kibidangoページ
http://kibi-dango.jp/info.php?type=items&id=I0000063
「無理です」という言葉は飛躍を止める――筋電義手「handiii」の挑戦
http://team-work.jp/feature/exiii.html