3Dプリンター事業の先駆け!世界企業「マテリアライズ」が考えるこれからの3Dプリンティングの活用の場とは

3Dプリンター事業の先駆け!世界企業「マテリアライズ」が考えるこれからの3Dプリンティングの活用の場とは


従来の製法ではありえないほどの自由な造形を、低コストでつくることを可能にして業界に衝撃を与えた「3Dプリンター」。

現在でこそ認知度が高く、企業だけでなく個人の制作活動にも活用されるまで浸透した3Dプリンターですが、その先駆けとして世界でいち早く3Dプリンターの活用の場を見出したのがベルギーのルーベンで創業された企業「マテリアライズ」でした。

今回はマテリアライズジャパン小林貞人さんにマテリアライズがこれまでやってきた事業や、これからやっていくこと。更に3Dプリンターの活用の可能性を伺いました。

まだインターネットが普及していない時代、3Dプリンターの可能性を見出す

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―当時、御社が3Dプリンターで事業をするに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?

もともとエンジニアでありバイオメカニカルエンジニアリングに非常に興味を持っていた創業者が、1989年に初めて3Dプリンターを見て、ユニークなものができると気が付き、更にそれが医療の分野において大きなインパクトを与えるだろうと感じて、3Dプリンターを購入したのが始まりです。最初の3Dプリンターは、貯金を全部はたいて借金をしてまで買ったそうで、次の日のパンを買うお金にも困るほどだったと聞いています。

 

―当時からすると、3Dプリンターは非常に先進的で高価なものですよね。

当時はインターネットが普及しきれていない時代なので、3Dプリンターでものを作るためのデータ作成ソフトウェアがない、もしくは足りていない状態でした。

3D-CADというものが工業界で少しずつ出始めた時代だったので3Dデータはすごく珍しかったのです。当初は3Dプリントの需用を増やすために、データを作るためのソフトウェアを開発していました。

それに平行して、将来的に医療業界にインパクトを与えることを見越して、かなり早い段階で医療画像、CTやMRIの画像データから3Dプリンターで出力可能なデータにするためのソフトウェア開発ビジネスを始めました。

 

医療分野に従事していた創業者夫婦だからこそ見えた3Dプリンター活用の可能性

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―将来的に3Dプリンターが医療分野にインパクトを与えると、創業当時から社長は確信を持っていたのでしょうか?

はい。弊社の創業者である社長は大学で医療系の研究開発をしていました。もともと医療のエンジニアリングには関心を持っていたため、創業当初から3Dプリンターを医療業界への進出を視野に入れていました。

3Dプリンターの医療業界への活用が普及するのに、工業界に比べると少しタイムラグがあったものの、当社ではかなり早い時期から着手し始めていました。1992年には初の医療臓器モデルができていました。

 

―具体的に医療でどのように活用されていったのでしょうか。

当初は、手術前に医師が患者さんの状態を確認するための模型として医療モデルを作っていました。

レントゲンだと二次元なので、患者さんの体のどこかに疾患があったとしても奥行きがわかりません。CTやMRIで患部を撮り、三次元化された画像を3Dプリントすることで、手術をする前にどこにどんな問題があるのかというのが、立体的に分かります。その結果手術時間の短縮や、手術中に起こりうる想定外のリスクを減らすことに繋がります。

具体的には、シャム双生児といって、母体の中で双子の胎児が接合してしまう症例があります。接合する箇所によって、どの部分が共有されているかは個々に違います。立体モデルを利用することで、手術の執刀医は、術前に患部を詳細に把握することができ、その結果手術の成功率が上がる。そのために立体モデルは、非常に便利なのです。

 

―やはり、御社の3Dプリンターの事業は、医療業界に貢献することが目的として大きくあるのでしょうか。

当社の社長が創業当時につけた会社の理念を日本語に訳すと、「より健康、健全な社会に貢献をするため3Dプリンター技術を活用する」、というものです。私たちは3Dプリンティングの会社なので、3Dプリンティングのテクノロジーを活かして「健康、健全な社会」を実現するという理念を25年前にかかげました。それは今も変わりません。

その中でも、医療への貢献は弊社の中で目標として重きを置いているところです。

 

デザイナーとのやりとりが、マテリアライズの知見になる

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―御社は対法人の事業の他に、i.materialiseのように個人のお客様向けに、自分でモデリングしたデータを3Dプリントできるサービスもされていますよね。始められたのはいつ頃なのですか?

i.materialiseは2009年にローンチしました。なぜそのタイミングだったかというと、SketchUp等の個人のお客様でも手に入る無料のデザインソフトが出始めた頃だったからです。そうすると個人でコンテンツが作れるようになり、さらに3Dプリンティングを用いてそのコンテンツを具現化することができます。それを簡単に注文できるサービスとしてi.materialiseをローンチしました。

さらに、個人向けに3Dプリントした製品を、「.MGX by Materialise NV」というブランドとして2004年にローンチしました。多くのデザイナーによってデザインされたランプシェードや椅子などの作品があり、これらは3Dプリントで作られています。一人のデザイナーだけではなく、様々な分野のデザイナーが想像し、3Dプリントされたものが製品として販売されています。

 

――「.MGX by Materialise NV」がローンチされた頃は、3Dプリンティングによって作られたものはプロトタイプでの活用法しか考えられなかった時代ですよね。これを製品にして売りだそう、というのはどういう過程で始めることになったのですか?

当社はもともと3Dプリンターを試作品のみならず、最終製品を製造するツールの1つと捉えていました。2004年には、3Dプリントの製造技術が最終製品として使えるところまできた、と感じました。

確かにこの頃、工業分野においては、試作の分野でしか使われていませんでした。射出成形をしたり削ったりして時間とコストがかかっていた試作品。3Dプリンターは、従来の製造方法よりも手間もコストも抑えられる、そういった目的で使われていました。

それまで3Dプリントは、「量産する前に試しに作ってみた」というような使われ方しかされていませんでした。そこで当社は、「デザイナーが、自分がデザインした表現により近づけるようする」、「設計者がより高性能なものを設計できるようにする」、「医師がよりリスクが低く成功率の高い手術が行えるようにする」など、3Dプリンティングがプラスアルファの要素を提供できるのであれば、そのお手伝いをしたいと考えていました。

 

―自分でデザインしたものを受け付ける、となるとデザイナーさんひとりひとりとのやり取りがとっても大変だったんじゃないですか?

何度も繰り返しいろいろなデザイナーさんと打ち合わせをしていると、社内にも3Dプリンティングのノウハウが溜まっていきます。例えば工業系のエンジニアの方からある製品をつくりたいと相談を受けたときに、そのノウハウを活かした提案ができるわけです。

これも1つの例ですけど、粉末造形でできたものです。

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上下にスライドして開花する花をイメージしたランプシェードですが、きちんと滑らかに動くように設計することは大変なことです。

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デザイナーさんがこのような設計を全てすることは難しい場合には、当社のエンジニアが、見た目の美しさはもちろん、正確に動作するものの設計支援をしています。量産の場合には、何十個、何百個つくっても同じクオリティーで造形できる設計にしないといけません。1回できれば良いのではなくて、繰り返し製造可能な設計をしていきます。

しかしある程度の生産量が見込めないと、そこまで工数をかけられないですよね。生産量を増やすためには、売れないといけない。売れるためにはデザインが良くないといけない……。なので、良いデザイナーさんと、良いエンジニアが一緒になって物を作ると、初めてお客様が購入してくださるものが生まれるのです。

このような「設計のためのノウハウの蓄積」というのは、当社にとって単発での利益は見込めないものですが、長期的に見れば、多くのお客様に技術支援ができるチャンスにつながっていくので、デザイナーさんに対しての技術支援の機会を大切にしています。

その代わり、支援するプロジェクトはかなり厳選しています。造形のみの依頼はもちろんお受けしますが、一緒にエンジニアリングする、ということであれば、お客様にとってその付加価値がなにかを一緒に検討しながら、やる意味があればお受けする、というようにしています。

 

3Dプリンターのより付加価値の高い活用の可能性を探り続ける

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―その「やる意味」には、何か判断基準があるのでしょうか?

お客様が実現したいことが、実現できるかどうか、です。さらにそれがお客様にとって付加価値が高いかどうかを考えます。当社は開発業でもありながら、サービス業ですので。医療の分野においても、様々な3Dプリンティングの使い方や付加価値があります。

先ほど挙げた、シャム双生児の分離手術のように、症状を事前に知るための立体モデル造形という活用法だけではなく、手術をする際の支援器具や治具を3Dプリンティングで製造するというケースもあります。この場合は模型よりも、もっと直接的に手術に関わってきますので、その分付加価値が上がってきます。今では実際に患者さんの体内に入れて、長期間使用可能なインプラントを製造していますが、これは非常に付加価値の高い事例と捉えています。

創業から25年間で少しずつ、技術の発展とともに付加価値を上げる用途を開拓しながら、お客様のイメージを実現するという仕事を積み重ねてきました。1番重要なのは、3Dプリンティングによる付加価値を生み出す用途を開発できるかどうか。それがいろいろな意味で実現できるかどうか。材料の特性であったり、設備の安定性であったり、ソフトウェアや、物流ロジスティックス。このような様々な観点から見れば、3Dプリンターの用途の開発と開拓の可能性は無限にあると思います。

ー旬の技術の背景には、独自のノウハウの蓄積があったのですね。本日はありがとうございました!

 
マテリアライズジャパン:http://www.materialise.co.jp/
 

編集後記

インターネットもまだ普及していない頃。マテリアライズ創設者の素晴らしい先見の明から始まった3Dプリンター事業ですが、普及のための市場づくりから、さらなる付加価値を高める用途開発等、地道で真摯な企業努力が今日の3Dプリンター需要をつくってきました。3Dプリンターを使って現在では不可能なことを可能にしていく、マテリアライズ。今後、日本にも工場をオープンする予定だそうです。ますます今後の展開に目が離せません!

 

 

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